漢字 -生い立ちとその背景- 白川静

1970年4月25日第1刷発行 1983年8月10日第16刷発行

 

表紙裏「日本語の表記にとって漢字は不可欠の文字である。にもかかわらず、文字としての漢字がどのようにして生まれ、本来どのような意味を持つものであったかを知る人は少ない。中国古代人の生活や文化を背景に、甲骨文や金文、および漢字が形づくられるまでの過程をたずね、文字の生い立ちとその意味を興味深く述べる。」

 

目次

1 象形文字の論理

2 神話と呪術

3 神聖王朝の構造

4 秩序の原理

5 社会と生活

6 人の一生

 

ヨハネ福音書に記された「はじめにことばがあった。ことばは神とともにあり、ことばは神であった」の文にさらにつづけるとすれば、「次に文字があった。文字は神とともにあり、文字は神であった」ということができよう(2~3p)。

・末尾は、「文字が神の世界から遠ざかり、思想の手段となったとき、古代文字の世界は終わったといえよう。文字は、その成立の当初においては、神とともにあり、神と交通するためのものであったからである」という内容で締めくくられている(188p)。

 

・古代にあっては、ことばはことだまとして霊的な力をもつものであった。しかしことばは、そこにとどめることのできないものである。高められてきた王の神聖性を証示するためにも、ことだまの呪能をいっそう効果的なものとし、持続させるためにも、文字が必要であった。文字は、ことだまの呪能をそこに含め、持続させるものとして生まれた(14p)。

 

白川漢字学の入門書と言われる名作。あとがきでは、「(甲骨文字や金文を)確実に理解しえたところに従って、これを整理し、帰納し、一つの体系にまで組織してゆくことが必要」「文字は当時の思惟のしかたに従って、厳密には一定の原理によって構成されている」、「文字学の『設文解字』は、さすがに貴重な知識の宝庫である。しかしその時代には、甲骨文・金文などの古代文字資料はまだあらわれず、また文字学の方法も十分なものではなかった」「文字の起源的な意味は、その当初の字形に即して、当時の思惟方法に従って考えるべきである」とする白川博士の基本的姿勢が紹介されている。

甲骨文字と金文をはじめ、説文解字については、

http://www.ukanokai-web.jp/ToshoShokai/setsumon_2.html

の解説がとても分かりやすい。