草枕 夏目漱石

昭和25年11月25日発行 昭和43年3月30日45刷改版 昭和54年5月25日67刷

 

智に働けば角が立つ。情に掉させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。

 
「楚辞」の絢爛豊富な語彙に触れて、自分の中に蓄積されている語彙を掘り起こし、「草枕」を書き出したと解説にあった(小宮豊隆)。大きな宝石箱をぶちまけでもしたように、燦爛たる世界が描き出されているとのこと。しかしそれよりも西洋趣味より東洋趣味を高唱している点にもっと重大な点があると指摘されている。漱石の晩年のモットー「則天去私」は草枕の„非人情”の態度の獲得に外ならないとのこと。非人情とは諸行無常というような意味あいだろうか?
 
美しく輝く宝石のような言葉が次から次へと紡ぎ出されていく漱石の世界を味わうならこの一冊。3度目に挑戦。
改めて冒頭から「璆鏘(きゅうそう)の音」(玉や金属が触れあって美しく鳴り響く音)、「澆季溷濁(ぎょうきこんだく)」(思いやりなどの人らしい感情が薄くなり、善悪や正邪の基準がおかしくなって、世の中が乱れること)、「尺縑(せっけん)」(一尺(約三〇・三センチメートル)ほどの絹地)、「不同不二の乾坤(けんこん)」(同じものが二つとない天と地)、「羈絆(きはん)」(つなぎとめること)などが次から次へと登場する。以下は、メモ帳として使う。

万斛(ばんこく) はかりきれないほど多い分量。

銀箭(ぎんせん) 銀の矢。

豎子(じゅし) 青二才。

雲烟(うんえん) 雲と煙、転じて雲とかすみ。

啼鳥(ていちょう) さえずる鳥。

蕭々(しょうしょう) もの寂しく感じられるさま。

巑岏(さんがん) 鋭く切り立っているさま。

寂寞(じゃくまく) ものさびしく静まっていること。

紙燭(しそく) 屋内で用いる松明(たいまつ)のこと。

黄檗(おうばく). キハダ (植物)の別名。

蒼勁(そうけい) ものさびて、勢いの強いこと。また、文字・文章・絵画などが、枯淡でかつ勢いの強いさま。

雅馴(がじゅん) ことばづかいや筆づかいが正しく練れているさま。態度が上品で教養のあるさま。

飄逸(ひょういつ) 世事を気にせず、明るく世間ばなれした趣があること。

曽遊(そうゆう) 今までに、訪れたことがあること。

琳琅(りんろう) 美しい玉。 また、英才や美しい詩文をたとえていう語。

炳乎(へいこ) 光り輝いて)明らかなさま。明白。

羈絏(きせつ) 手綱。

氤氳(いんうん) 生気・活力が盛んなさま。

瞑氛(めいふん) 暗い気配。薄暗い感じ。また、幽玄な気配。

纏綿(てんめん) まといついて離れにくいさま。特に、愛情が深くこまやかなさま。

逍遥(しょうよう) あちこちをぶらぶら歩くこと。散歩。

寤寐(ごび) 目覚めていることと眠っていること。

縹緲(ひょうびょう)1 広くはてしないさま。2 かすかではっきりとしないさま。

湛然(たんぜん) 水が十分にたたえられよどんでいるさま。また、静かで動かないさま。

陋(ろう)1 場所が狭苦しい。2 心が狭く卑しい。

煦煦(くく)1 日の光などが暖かなさま。2 恵みを与えるさま。

眸子(ぼうし) ひとみ。瞳孔(どうこう)。瞳子

鞠躬如(きっきゅうじょ) 身をかがめて、おそれ慎むさま。

福禄寿(ふくろくじゅ) 七福神の一つ。背が低く、頭が長く、ひげが多い。中国で南極星の化身(けしん)といわれた。

御新造(ごしんぞ) 他人の妻の敬称。古くは、武家の妻、のち富裕な町家の妻の敬称。特に新妻や若女房に用いた。

法返(ほおがえ)しがつかない どうしようもない。なすすべがない。

参差(しんし) 高さ・長さなどの違うものが入り混じって、ふぞろいなさま。

駘蕩(たいとう)1さえぎるものなどがなく、のびのびとしているさま。2春の情景などが、平穏でのんびりとしているさま。

怡怡(いい) 喜ばしいさま。喜び楽しむさま。

澌尽礱磨(しじんろうま) 「澌尽」は尽きてなくなること、すべてなくなること。

「礱磨」は摺るとか砥ぐの意。

昧者(まいしゃ) おろかもの。愚者。

丸絎け(まるぐけ) 引き伸ばした真綿などを芯に入れて、丸い棒のように絎けて仕上げること。そのように仕立てた紐。

味噌擂(みそすり) ごますり。

乾屎橛(かんしけつ) っともきたないもの、取るに足りないもののたとえ。

霊氛(れいふん) 「霊気 (れいき) 」に同じ(神秘的な気配・雰囲気)。

茫茫(ぼうぼう) 広々としてはるかなさま。

這裏(しゃり) 《「這」は「此」の意》このうち。この間(かん)。

麾(さしまね)く 手でまねく。

儃佪(せんかい) 足が進まないで立ち止まること。

縹緲(ひょうびょう) かすかで、はっきりしないさま。

仙丹(せんたん) 飲めば不老不死の仙人になるという霊薬。

窅然(ようぜん) 奥深くて遠いさま。また、物思いに深く沈んでいるさま。

冲融(ちゅうゆう) 和らいだ気分に満たされているさま。

淋漓(りんり) したたりおちるさま。

洪繊(こうせん) 大きいものと小さいもの。大きいことと小さいこと。大小。

惝怳(しょうきょう)1 驚きのあまり、ぼんやりすること。心を奪われること。2 がっかりすること。失望すること。

逓次(ていじ) 次々と順を追うこと。順次。

把住(はじゅう) とらえとどめおくこと。

蕭寥(しょうりょう) ひっそりとして、もの寂しいさま。

冥邈(めいばく) 暗くて遠いこと。また、そのさま。

検校(けんぎょう) 物事を調べただすこと。また、その職。

陋(ろう) 場所が狭いこと。また、心・見識が狭いこと。

弊竇(へいとう)《「竇」は穴の意》 弊害となる点。 欠陥。

齷齪(あくそく) 細かいことを気にして、落ち着かないさま。目先のことにとらわれて、気持ちがせかせかするさま。

峙(そばだ)つ 他のものに比べ、ひときわ険しく高くそびえ立つ。

賞翫(しょうがん) (良い)物を珍重し、もてはやすこと。物の美を愛し味わうこと。物の味をほめて味わうこと。

嫣然(えんぜん) (美人が)あでやかにほほえむ様子。

悄然(しょうぜん) 元気がない様子。しょげているさま。憂いに沈んでいるさま。

機鋒(きほう) ほこ先。きっさき。また、鋭い勢い・攻撃。

撞木(しゅもく) 鐘・半鐘などを打ち鳴らす丁字形の棒。かねたたき。

泬寥(けつりょう) 雲がなく、からりと晴れわたっているさま。

塵滓(じんし) ちりとかす。けがれ。また、俗世間のけがれ。

行屎送尿(こうしそうにょう) 日常生活のたとえ。また、日常生活でのごくありふれた事柄のたとえ。

尺素(せきそ) 《1尺の絹布の意で、文字を書くのに用いたところから》短い手紙。尺書。

寸縑(すんけん) わずかばかりの絹の布地。少しのかとり。

鼎鑊(ていかく) 1 3本足のかなえと、脚のないかなえ。また、大かなえ。肉を煮るのに用いた。2 中国の戦国時代に、重罪人を煮殺すのに用いた道具。

急湍(きゅうたん) 流れの速い瀬。早瀬。

岨道(そばみち) 《古くは「そわみち」》険しい山道。そばじ。

的皪(てきれき) 物があざやかに白く光りかがやくさま。

崢嶸(そうこう)1 山や谷のけわしさ。2 人生のけわしさ。山などが、高くけわしいさま。

檻穽(かんせい) 檻と落とし穴。