真実一路(上) 山本有三

1986年1月 初版発行

 

寄付金

 小学校が生徒に寄付を募る。義夫は厳格な父から10銭受け取るが、登校途中で友達が20銭寄附すると聞いて自分の小遣いから10銭足して封筒に拾の上に自分で「二」と書き足す。同じクラスの貧しいクラスメートが10銭寄附するつもりだったのに失くしてしまう。それを知って義夫はこのクラスメートに10銭をあげる。クラスメートは帰宅後母に話をして担任に10銭をつき返す。

 

ほんとうのこと

 翌日、クラスの担任は義夫を疑っているわけではないと言いつつ、本当のことを言ってほしいという。義夫は疑われたことで立腹して黙っている。義夫には母がいないため姉が学校に呼ばれて事情を聞かされる。姉も義夫に本当のことを言ってくれというので義夫は答えない。姉は父親に説明し、厳格な父親が義夫に尋ねると、さすがに義夫は包み隠さず全部話をする。父親が担任に義夫の話を告げ、そもそも学校で寄付を募ることが間違っていると持論を展開する。

 

家出

 姉が婚約し、今までのように義夫をかまってくれない。父親は勉強を教えるが義夫は身が入らない。そんなこんなで義夫が家を飛び出してしまう。

 

知らせるほうがいいか、知らせないほうがいいか

 ある時、義夫は姉について、おばあさんの家に行く。すると、女の人が男性と口論している。そこに姉が「おかあさま、そんな大きな声をだして」というのを義夫は聞いてしまう。死んでしまったと聞いていたのに、母がいる?義夫は姉に問うが、姉は「おばさま」といっただけだと言い張る。帰宅後、義夫は姉の部屋のタンスをかきまわす。姉の幼い頃の写真を見つける。しかし半分切り取られていた。姉は父に義夫に本当のことを話した方が良いのではないかと相談するが、父は頑なに拒絶する。

 

ウグイス笛

 姉は婚約者と梅見に行く。義夫のことを相談すると、隠し事は良くない、本当のことを告げるべきだ、私はそう思うとアドバイスされる。姉はおじに相談して、義夫に本当のことを言うべきか相談する。おじは母親に家に戻ってくれるよう話をしに行こうという、うまく言えば一石二鳥だとも。

 

自分も知らない秘密があるのだろうか

 母親はカフェを開いていた。叔父と姉は母親に相談するが、けんもほろろも断られる。

 婚約者が仲人を姉の家によこして今回の話はなかったことにしてくれと言いに来る。姉はどうしてだかさっぱり分からない。姉は婚約者に手紙を書き、2度目の手紙にようやく返事が来たが、事実をひた隠しに隠している方とは手をつなぐ気になれないと、姉にとっては全く意味が分からない返事だった。父親に聞くも、わからないとだけしか言わない。姉は父親がきっと何か隠していると思う。

 

父、母、父

 姉は家に閉じこもった。母に、父が何か隠しているのではないかと聞くが、母は知らないという。おじさんに相談に行くと、おじさんは絶対にこれだけは言わないでくれと口止めされていたことだが、といいつつ、衝撃の事実を伝えられる。母は恋愛関係にあった男性との間で身ごもったが、その男性が急死してしまう。母の父親は、学生時代から世話をしていた父に事情を話し、父は全て事情を呑み込んで母と結婚したのだった。

 

真実一路の旅なれど

 父は母の恋人の墓参りを人知れず続けていた。それを知った母が父をなじる。二人はそりが合わなかった。そんな中、義夫が生まれ、母は自分で育てようとしたが、周りが賛成してくれず、結果、父に育てれられることになった。父は隠しているのではない、どこまでも自分の娘として嫁にやりたい、心からそう思っている、事実をこえた大きな真実がある、と、おじは言う。父は一生真実をつくしていながら、妻にはそむかれ、娘にはうたがわれ・・・

 姉は父の心を知って泣き崩れる。

 

オオハラ海水浴場

姉は担任に義夫に本当のことを言うべきか相談すると、時期を見て本当のことを言うべきだと言われる。その頃、父は姉と義夫を連れて避暑がてら海水浴場に遊びに出掛けるが、急遽仕事で一人帰京する。義夫は魚釣りをしていると、そこに偶然、母と現在の恋人が現れて、母の恋人が義夫に魚釣りを教えてくれた。

 

花たば

 一足先に帰った父親が喘息をこじらせて寝込んでしまう。そんな父に誰だか分からないが毎日のように白いバラの花束が届く。誰が送ってきたのだろうと思った姉がおじに聞くと、おじは笑うだけであった。

 

二つの心

 おじは恐らく母からだと思うと告げた。母は恋人と別れて、父に謝りたい、おじに間を取りもってくれと頼んでいた。そんな話を姉にしている矢先に、母は父の家に突然押し掛けてくる。おじも、せいてはいけないというが、母は聞く耳を持たず、家の中に入ってしまう。

おじは仕方なく父に母が来た事を知らせるが、父は許さない。母は義夫を抱き上げようとし、自分のことをおばと名乗る。父から拒絶の返事をおじから聞かされた母は帰っていく。