フィンランド  幸せのメソッド  堀内都喜子

2022 年 5 月 22 日第 1 刷発行


 表紙に「幸福度 5 年連続世界一(2018~2022)」「小学校から大学院博士課程まで学費無料!」「ジェンダーギャップ指数第 2 位(2021)」「ワークライフバランス世界一(2019、2021ヘルシンキに対して)」「『移民が感じる幸福度』第1位(2018 国連調査)」、「国民みんなが幸せになれる、驚きの『仕組み』とは?」「推薦!山口周氏、小島慶子氏」とあり、裏表紙には「『アメリカン・ドリーム』よりもすごい『フィンランド・ドリーム』を支える仕組み」
「・優秀な若者を積極的に抜擢し、ベテランは陰から支える文化
 ・男女平等への取り組みを企業や学校に求める『平等法』
 ・児童手当、親休暇、職場復帰を保証する『在宅保育の休業制度』…子育て・共働き 家族を助ける多種多様な手当と休暇
 ・小学校から学費無料、さらに大学以降は生活手当と住居手当も支給
 ・『学力向上』なんて時代遅れ⁉フィンランドの学校の最新事情
 ・誰でも無料で利用できる出産・子育ての専門医療施設『ネウボラ
 ・新生児誕生時に贈られる、赤ちゃん用品が詰まった『育児パッケージ』
 ・起業ブームの背景にある大学教育とスタートアップ手当などの公的支援
 ・国民の声を政府に届けて同性婚の合法化に繋がった『国民発案性悪』」とある。
 表紙裏にも表紙と同様に多方面で高い評価を受けていることを再掲した上で「その背景には、『人こそが最大の資源で宝』という哲学がある。立場を問わず全ての国民が平等に、そして幸福に暮らすことを可能にする、驚くべき仕組みの全貌とは?そして、日本はそこから何を学べるのだろうか。最新の情報もふんだんに盛り込んだ、いま必読の一冊」とある。
 まえがきで、2019 年 12 月に世界最年少 34 歳で第 46 代フィンランド首相に選出されたサンナ・マリンが登場。幼い頃に父のアルコール問題で両親が離婚し、母は同姓パートナーと一緒になり、マリンは家族の中で初めて高校卒業資格保有者となった。高校卒業後は店のレジ係として働き、失業手当を受けて生活したり、そんな中で大学に進学し、学生ローンは借りずにアルバイトをして生活する中で、政治に関心を持ち始めて、10 年以上かけて卒業。国会議員になった後に修士号を取得。国会議員になったとに娘が産まれ産休・育休を取得し、首相になった後に正式に結婚。2020 年の新年の挨拶で「社会の強さは、最も豊かな人たちが持つ富の多さではなく、最も脆弱な立場の人たちの幸福によって測られます。誰もが快適で、尊厳のある人生を送る機械があるかどうかを問わなければなりません」と締めくくった。
 これだけで本書の掴みは十分だろう。

 しかし、驚くことなかれ。なんと連立政権を率いる5党のリーダーたちは、全員女性で、しまも4人が30代前半。以前から女性の社会進出が進んでいたかと言えば、必ずしもそうではなくここ10数年で女性がトップに就くことが増えたようだ。
 フィンランド版の経済同友会にあたる「ビジネス・政策フォーラム」(EVA)が2007年に発表したレポートによると、上場企業では女性経営者の企業の方が、男性経営者の場合と比べて平均で利益率が10%高いという。
 現在フィンランドの男性が子どもと過ごす時間は1日あたり平均で4時間 14 分。2017 年に OECD が発表した、親が子どもの育児に積極的に関わる時間についての調査では、フィンランドは父親の方が母親よりも1日あたり平均で8分長かった。父親の方が長い国はフィンランドのみだ。
 「ネウボラ(neuvola)」は、フィンランド語で「アドバイス(neuvo)の場(la)」という意味。出産、子育て、心理カウンセリング、避妊や不妊に関する相談、離婚や非行といった家族の問題など、様々な相談内容に応じて複数のネウボラが存在し、フィンランドでは、国立保健福祉研究所(THL)の調査によれば 99.7%の人たちがネウボラの健診を受けている。
 また出産の際にフィンランド社会保険庁(KELA)は育児パッケージを支給している。ベビーケアアイテムや服、親のためのアイテムなど 50 点に及ぶ。1 歳になるまでの必要なありとあらゆるアイテムが一通り揃ったスグレモノ。現金で受けることもできるが、95%はこちらを選択する。
 フィンランドのクロサーリ小学校では教師と子どもが一緒に成績評価をするので、一方的な評価や相対的評価でない分、子どもの満足度も上がり、主体的かつ積極的に学びに取り組むことになるという。また学校での部活動はないものの、ワーク&バランスが整っているので1日にスポーツに楽しむ時間は OECD の統計によるとフィンランドは世界トップクラス。企業立国としても成功していてスタートアップに集まる投資額はヨーロッパ最大で欧州平均の2倍、海外からのスタートアップへの投資額は2010年以降で10倍に増えている。フィンランドといえばノキアが有名だが、携帯事業を切り離した際にその直前にリストラ支援プログラムブリッジを始めて企業支援したが、その利用者の満足度は85%と非常に高い。高校生への調査で「将来のキャリア選択肢として企業を考えているか」には2008年には2%だったのが2018年で47%に跳ね上がっている。
 フィンランドの大学生は授業料が無料であることに加え、国から 54~56 カ月間、生活手当と住居手当を合わせてひと月当たり約 5 万円が援助される。
 子ども向けの記者会見も工夫されていて、首相と大臣が公共放送と協力して子ども向けの記者会見を開いて不安を抱える子どもに向けて分かり易い言葉を選んだコロナ禍でのメッセージを伝えることにも一定の成功を収めている。2021 年 1 月の調査で政府のコロナ対策は 75%が受け入れる若しくは高く評価するとなっており、デンマークに次いで高く支持されている。2020 年末の SDGsの最も高い達成度はフィンランド。欧州グリーン首都賞を受賞したラハティは生活の質を落とさずに楽しみながらサスティナブルの大都市を作ることを目指し、2025 年までにカーボンニュートラルに、2050 年までに廃棄物ゼロの循環型経済都市になることを目標とする。

 2012 年から施行された国民のイニシアティブ制度もユニーク。5 万人以上の署名を集めれば正式に政府に提案でき、それにより同性婚の合法化法案が成立し 2017 年に施行された。
 勿論課題もあるが、学ぶべきことは山のように沢山あると思う。頭カチコチの老人社会になってしまった日本も沈没する前にフィンランドに多くを見習いたいと痛切に思う。