中国のデジタルイノベーションー大学で孵化する起業家たち 小池政就

2022年6月17日第1刷発行

 

帯封「日本にとって歴史的・文化的・地理的にも最も関係が深く、いま新たな変化の中にある中国社会を、日本に留まって闇雲に相手を批判・警戒・好奇の視点で捉えることなく、自らの眼で確かめ、次の世代のためにも建設的な繋がりを築いていきたいと考えている。筆者がこれまで日本・米国・欧州で期せずして文理融合・産官学連携を体現しながら育ててきた複眼的視点で、本書では日本の読者に中国のデジタルイノベーションの深層を伝えていく。

目的は決して中国の取組を称賛することもでも嘲弄することもでもなく、またそれらを日本に押しつけることでもない。日中の共通点や相違点を把握した上で、それぞれの立場で筆者の経験や見解を活かして頂ければ、というのが真意である。-本書「はじめに」より」」

表紙裏「キャッシュレス決裁やブロックチェーン技術など、中国では目をみはる勢いでデジタル化が進展している。そこには、日本からは見えない民間と大学の重要な役割があった。『創業・創新』の中核を担う精華大学に籍を置く著者が、豊富な事例をもとに中国式DXの現状と課題を掘り下げ、日本が学ぶべき点を提示する」

 

著者は、丸紅勤務、東大助教日本大学准教授、衆議院議員を経て北京へ。精華大学日本研究中心および精華大学五道口金融学院で訪問学者を歴任。

 

中国のデジタルイノベーションはここまで来ているのか!と正直驚きの内容が満載。

・中国の信用スコアは有名だが、携帯GPSを組み合わせた認証機能による信用スコア付けが進み、信号無視をすると減点されたりと、法規制を超えた行動規制も生まれている。

・英国の「世界大学ランキング2022」が2021年9月に公表され、1位がオックスフォード大学、2位がハーバード大学カリフォルニア工科大学、4位がスタンフォード大学、東大が35位、京大が61位なのに対し、精華大学・北京大学はともに16位。復旦大学60位、浙江大学75位、上位200校に10校が入る(日本は東大、京大のみ)。

・精華大学サイエンスパーク(TUS)は起業家と大学企業エコシステムを融合的に包みこみ発展させる役割を担っている。巨大な4つの高層ビルは77万平方㍍の面積を擁し、1500以上の企業が軒を連ねる。現在2000億元(約3.6億円)の資産を運用する。「創意(アイデアを生み出す)」「創新(アイデアを商品やサービスにする)」はインキュベーション施設x-labが担い、「創業(ビジネスとして確立する)」「創造価値(付加価値を社会に広げる)」はTUSが担う。

・一代で財を築いた世界の女性起業家10傑のうち、9人は中国人。「中関村」(チョングァンツン)は今やベンチャー企業の集積地。2020年ユニコーン企業の価値総額ランキング世界上位3傑は中国が独占し、2位(バイトダンス10兆円)と3位(滴々出行6.7兆円)の創業者はいずれも中関村出身。

ブロックチェーン関連の特許案件数は2016年に米国を抜くと、2017年には米国の2倍、2018年には約6倍以上と、差は急速に拡大。

・2022年冬季五輪でデジタル人民元が試験的に導入され、中央集権の一層の強化が図られている。

・一帯一路構想にインターネットプラス構想が加わり、「情報シルクロード」「デジタルシルクロード」構想が進む中、日米がエネルギー・インフラ・デジタル連結性協力を通じた自由で開かれたインド太平洋の促進に関する日米共同声明が2018年11月に発表される等、デジタル分野での米中対立が舞台を世界大に拡大していくことは明らか。

(反対に、日本は中国、米国に大きく離されてしまっている。英国ロンドンビジネススクール内の国際起業調査協会が2020年2月に発表した統計分析・主観調査では、「起業は有望なキャリアである」への回答率は50か国中49位、「自分には能力や知識がある」という自己評価の回答率にいたっては最下位、「自分の分野に起業の良い機会がある」「起業した知り合いがいる」という回答も最下位だった)。