イスラエルとユダヤ人に関するノート 佐藤優

2015年2月23日初版発行

 

帯封「イスラエル支持は、日本の国益に資する 国際政治と歴史と聖書に照らして書き下ろされた筆者の極秘の考察ノート」「私(佐藤)は、イスラエルユダヤ人から学んだ事柄を記した。イスラエル人の愛国心、さらにそれを支える神理解から、日本国家と日本人が生き残るための知恵を学ぶことが、私が本書を著した目的である。【まえがきより】」

 

目次と内容の一部抜粋(要約)が混在する形になってしまったが、佐藤優さんが極めて敬虔なキリスト教信者であることがよくわかる本であり、また高度なインテリジェンスを用いて日本とイスラエルがどうあるべきかについて著者の思考が具体的なケース・事例を通じて詳しく書かれていて大変勉強になった。

 

目次

まえがき

 重要なのは、元イスラエル高官が述べている「政府の社会に与える機能の変化」、「民族問題は解決されたのではなく、停滞期に入っていたに過ぎない」、「古典的戦争観と現代的戦争観の相克」という切り口だ。さらに言うと、「人間の性格は百年程度の短期間に根本的に変化することはない。波動が繰り返すだけである」という突き放したものの見方、考え方だ。

 「全世界に同情されながら死に絶えるよりも、全世界を敵に回しても生き残る」という気概を持つイスラエル人の愛国心、さらにそれを支える神理解から、日本国家と日本人が生き残るための知恵を学ぶことが本書を著した目的でもある。

Ⅰ 私とイスラエルについての省察ノート

 1話 なぜ私はイスラエルが好きか

 2話 旧約聖書の再発見とヨムキプール戦争の教訓

 3話 獄中の私を支えてくれたイスラエルの友人たち

Ⅱ ロシアとイスラエルの考察ノート

 4話 モスクワのオランダ大使館領事部

 5話 ナティーブの対ソ秘密工作

 6話 ロシア・グルジア戦争を分析するイスラエル専門家の視点の重要性

 7話 プーチン露大統領のイスラエル訪問の意義

 8話 イスラエル外交に働く目に見えない力

 9話 シャロン元首相とロシア

Ⅲ 日本とイスラエルの考察ノート

 10話 『スギハラ・ダラー』から杉原千畝を読み解く

 11話 東日本大震災をどう考えるか

 12話 福島第一原発事故に関するあるイスラエル人との会話

 13話 F35問題をめぐる武器輸出三原則の解釈がイスラエルに与える影響

     最新鋭ステルス戦闘機F35に関し日本国内で製造した部品の輸出を、武器輸出三原則の例外措置として認める方針を固めた政府の態度について、外務省の一部幹部に慎重論が出ること自体、F35問題でテロとの闘いに関し日本は米国やイスラエルとは別の価値観を持った君であるという認識を強めることになり、ナチスドイツのユダヤ人女性に対する人権侵害と同等の問題であると位置づけようとする韓国の慰安婦問題に飛び火させるものである、という分析は、佐藤さんならではの鋭さがある。

 

14話 国家安全保障会議(日本版NSC)とイスラエル・ハイテク産業

 

15話 画期的な日本・イスラエル共同声明

    2014年5月にネタニヤフ首相が来日した際の安倍首相との共同声明(日本・イスラエル間の包括的パートナーシップ構築に関する共同声明)は、世界最先端の能力を有するイスラエルのサイバー技術を日本が導入する可能性に道を開くものとして画期的であると評価する。

 

Ⅳ イラン、シリア、北朝鮮の考察ノート

 16話 中立国と情報工作

 17話 イラン危機と日本

 18話 イスラエルとイランの関係をどう見るか

 19話 イランと「国交断絶」したカナダに学べ

 20話 孫崎亨・元外務省国際情報局長のイラン観について

 21話 北朝鮮によるシリアの核開発支援にイスラエルはどう対処

 22話 シリア情勢を巡る日本の独自外交

    イスラエルとイランの関係、シリアと北朝鮮の関係、日本のイラン外交について知らなかったことが多いと痛感。この分野の勉強をしっかりせねば。

 

Ⅴ キリスト教神学生への手紙

 23話 ある神学生への手紙-『トーラーの名において』の評価

 24話 あるキリスト教神学生からのメールーユダヤ民族の否定について

25話 反ユダヤ主義の歴史について1

26話 反ユダヤ主義の歴史について2

   民族とは何か、という事を深く考えさせられる内容だった。

   そういう問題意識を含め、「未熟な思想で社会と世界を断罪する癖がついてしまうと、その後の知的、人間的成長に悪影響を与えます」という一文は私の心にぐさりとささった。やはり色々な勉強を若い時からやり続けることが重要だ。今さら遅いかもしれないが、諦めずにこれからも色々勉強しようと思う。またどういう本をどういう順序で読むのか、という問題はこれまであまり意識してこなかったが、偏頗・浅薄なものにならないようにこの問題もこれからはしっかり考えなければならないと痛感する。

27話 キリスト教イスラエルー『キリストの火に』を読む

この話では、著者が日本キリスト教会で洗礼を受け、その後、日本基督教団に転会し、真剣に日本国家、日本民族について取り組もうとしていることがよくわかる。

同志社大学の先輩である財津正彌先生の本を通じて知った、手島郁郎先生の、日本のキリスト教の誇りであると述べ、手島先生の、死を覚悟しないような信仰ならせぬ方がいい、もう死んでも構わぬというくらいの尊いものがあるから、私たちは命かけて神に信ずるんじゃないですか、との教えを引用しつつ、神を知らぬ三島由紀夫でさえ日本を真の日本の姿に取り戻すために共に死のうと腹をかき切って死んでいった姿と、ソ連チェコ侵攻に抗議して焼身自殺を遂げたチェコ兄弟団福音教会のヤン・パラフ君の姿には通底するものがあると著者は分析し、宗教改革ヤン・フスの魂を引き継いだチェコのフロマートカ神学を通じて、キリスト教徒は他のいかなる宗教を信じる人やどの宗教を信じない人よりも、国家と民族をより深く、より現実的に理解することができると確信を持つようになったと述懐する。

28話 ホロコースト生き残りの証言

あとがき

 

 

 

文系のための基本情報技術者 はじめに読む本 数学が苦手な人でも大丈夫! 1日で基礎知識を身に付けよう 近藤孝之

2022年9月30日初版第1刷発行

 

ITパスポートは受かった。さて次は基本情報技術者を受けてみようかと思い、参考書を開いたり、問題集を買ってみたりしたが、あまりのわからなさに悶絶… そんな方のために、基本情報技術者試験のために必要になる、2進数や論理回路アルゴリズムなどの基礎知識を、専門学校の講師としての経験を生かし、身近な例や語り掛け口調、うんちくを駆使して親しみやすくまとめ、かみ砕いた説明でわかりやすくする本です。まずはこの1冊でスタートを切りましょう。

 

第1章 2進数って、なんだか不気味?

     今まで読んできた本よりも、はるかに分かり易く書かれているものの、やはり2進数は、どうしても途中(2進数の計算あたり)から分からなくなる。

第2章 機械はどうやって記憶する?

     この部分はとても初心者に分かり易く書かれてあり、素人にも分かる内容になっている。恥ずかしながらM⁺キーやMRキーの使い方を知らなかったので、勉強になる。

第3章 機械はどうやって計算する?

     集合の話までは分かるが、ここに2進数の計算が加わり、さらに確率の話になると、また分からなくなってくる。それでも平均値、中央値、最頻値、標準偏差はかろうじて分かる。

第4章 CPUの中身はどうなってる?

     CPUは制御装置と演算装置で構成され、それ以外に入力装置・記憶装置・出力装置という図解はとても分かり易い。でもその先に機械語アセンブリ語になると、ちんぷんかんぷん。

第5章 ソフトウェアってどんなもの?

     ハードウェア・OS・アプリケーション・ソフトの3種類は分かるが、C言語以下の内容は理解できない。

第6章 ネットワークはどうやってつながる?

     IPアドレスの説明は分かり易い。IPv4IPv6の違いは初めて分かった。プロトコルTCP/IPの意味も分かり易かった。

最後の、IPv6の説明の箇所で、1016京、1020垓、・・1056阿蘇祇、1060那由多、1064不可思議、1070無量大数という桁の単位は興味深かった。

 銀河に1000兆個の星があるけれども、それでも1015に過ぎない、全宇宙の星も1027にしかならない。それなのにIPv6は1038なので、星の表面に1011の石ころがあっても識別できることになる、すなわち「全宇宙の石ころに一つ一つのIPアドレスを割り振ってもなお余りある」ということになる、というもの凄い数の話で終えている。

「続けられる人」だけが人生を変えられる ダメな自分がなりたい自分になる“1分ノート”  大平信孝

2020年1月20日第1刷

 

表紙に、「「見る」「動く「書く」だけ!奇跡は1分で起こせる 1万2000人の「行動」に革命を起こしてきた目標実現の専門家が教える習慣化の法則」とも。 

 

 

表紙を開くと、「人は繰り返し行うことの集大成である。だから優秀さとは、行為ではなく、習慣なのだ。-アリストテレス」の言葉が大きく引用されている。

まさしくその通り。私も、ここ数年間、自分が本当にやりたいことを小刻みに習慣化して続けるという事を励行してきたが、好きな事を続け、それを習慣化することは自己開発にとり有効な手段だと思う。やろうという意欲が沸き立たなくても、知らず知らずのうちにやり続けてしまえるからだ。もちろん、時にはいつものルーティーンを続けることがつらい時もある。そんな時のために、あらかじめ自らのモチベーションをあげるために自分だけに通用する「喝!」が入る言葉を書き連ねたスマホ・メモを見るようにしている。つらつら書き続けたものをモチベーションがあるように優先順位をつねがら絶えず改訂してきたメモだ。

同様に、今日やるべきこと、ここ数日のうちにやるべきこと、1週間から1カ月単位でやるべきこと、年間通じて成し遂げたいこと、3年5年7年単位で実現したいこと、20年30年単位でやりたいことをルーズリーフに書き続けている。そして絶えず優先準備をつけるようにしている。1日1回は日々の計画を見直すし、また週に1回は次週を見直すし、1カ月に1回は月間の予定を立て、年に1度は3年から5年単位の年間スケジュールを見直すようにしている。そして古くなったものは時に破棄し、あるいは改訂する。でも過去の自分に振り返った方が良いときもあるので中には古いメモでも残したままにしてあるものもある。

私がやってきたことと著者がやってきたことは全く同じではないが、かなり似ている。

著者は「習慣化ノートのつくり方」を具体的にアドバイスしている。もしまだ習慣化ノートを作っていない人がいるのであれば、是非作成することをお勧めする。自分の頭の中を整理しやすいように自分なりの習慣化ノートを作成するのが肝だと思う。私がやっておらず著者独特のものとしては「3日ボーズシート」というものがあった。これも自分なりに取り込みアレンジして何らかやってみようと思う。

 表紙裏にあるとおり、多くの人は「習慣改革法」を知らないが、それを実践していないだけだと思う。100人いたら、初動行為に至る人が20%、続ける人が20%なので、要は続けるだけで上位4%に入れるのだと聞けば、誰でも続けてみよう、続けてみたくなるのではなかろうか。

空想より科学へ ―社会主義の発展― エンゲルス 大内兵衛訳

昭和21年9月20日第1刷発行 昭和41年3月16日第35刷改版発行 昭和41年9月10日第36刷発行

 

1〔空想的社会主義

 〔社会主義は思想である。〕

フランス革命は理性の革命であった。〕

〔その革命の限界。〕

ブルジョア革命はそのうちにプロレタリア革命をふくんでいた〕

〔彼らが空想的であったのは社会的地盤がなかったからだ。〕

〔革命は理性どおりにはいかない。〕

〔なぜ理性が無力であったのか。〕

〔社会的地盤のない理性は実現しない。〕

〔サン・シモンの社会主義。〕

〔サン・シモンの思想は雄大で革命的であった。〕

フーリエは革命の、そしてそれがもたらした文明の偉大な批評家である。〕

オーウェン産業革命の最初の実践的批評家であった。〕

〔彼はその実践を通じて社会主義者となった。〕

オーウェンの計画は立派であった。〕

オーウェン社会主義を実行したとき、彼の方が亡びた。〕

〔空想より科学へ。〕

 

本文の小見出しを追っかけるだけで、何が言いたいのか、大体、わかるように記述されている。要するに、フランス革命は理性の革命であったため、社会的な基礎なくして理性は実現しないから失敗した。その結果、フランス革命は、労働者を搾取するブルジョワジー革命を実現させた。これに対し、サン=シモン、フーリエオーウェンの3人が、プロレタリア階級の利害を代表するかわりに社会主義を試みたが、彼らはユートピア(空想)を思い描く空想家だった、というもの。

本文の末尾は、

「これら空想家の考え方は十九世紀の社会主義思想を久しいあいだ支配し、部分的には今もなお支配している」とし、「社会主義を一つの科学とするためには、まずもって、それを現実の地盤の上にすえねばならない」と結んでいる。

 

2〔弁証法唯物論

弁証法唯物論

弁証法の歴史。〕

形而上学的考え方の限界と誤謬。〕

〔自然は弁証法の検証である。〕

〔カントがその星雲説でまず弁証法を検証した。〕

ヘーゲル弁証法を完成した。〕

ヘーゲル弁証法は逆立ちしている。〕

〔近代唯物論は自然弁証法である。〕

〔社会の歴史も、はやくも弁証法的発展があった。〕

〔一切の歴史は階級闘争の歴史である。〕

階級闘争の正体は剰余価値であった。〕

社会主義を科学としたのはマルクスである。〕

 ヘーゲル弁証法を完成させたが、観念的であり、一切のものは逆立ちさせられ、ヘーゲル歴史観の代わりに近代唯物論唯物史観が登場し、ここに階級闘争歴史観が必然的に生まれた、というもの。

 本文は「唯物史観と、剰余価値による資本主義的生産の秘密の暴露とは、われわれがマルクスに負うところである。社会主義はこの発見によって一つの科学となった」という結び方となっている。

 

3〔資本主義の発展〕

唯物史観は社会革命の手段を生産関係のうちに見る。〕

〔資本制生産関係の中で生産方法と生産力が衝突した。〕

〔この衝突の原因(一)生産方法の社会化。〕

〔(二)所有(取得)の個人性。〕

〔右の(一)と(二)とが資本主義生産の基本的矛盾である。〕

プロレタリアートの出現。〕

〔市場における商品の法則が生産者を規制する。〕 

〔商品は小生産者の間に出現した。〕

〔資本主義生産方法とともに商品の法則が支配的となった。〕

〔産業予備軍の法則、『窮乏化の法則』。〕

〔生産力の拡大と市場の拡大とが矛盾する。〕

〔それを調整すべく恐慌はくり返される。〕

〔恐慌とは生産方法の交換方法に対する叛逆である。〕

〔恐慌は生産力から資本たる性質を解放することを求める。〕

〔それはまず資本の独占-トラストとなる。〕

〔トラストはいつまでもゆるされない。〕

〔重要産業の国有化はすでに行なわれている。〕

〔資本家もまたその社会的機能を失う。〕

〔産業国有ではそれは解決しない。〕

〔解決は生産方法の社会的性質の承認にある。〕

〔われわれが生産力を支配することができる。〕

〔国家の廃止と死滅。〕

〔いまや社会主義は歴史的必然である。〕

〔その基礎は階級の分裂である。〕

社会主義とは計画生産である。〕

 

重要な本文を引用すると、

「社会的に生産されることになった生産物を取得する人は、生産手段を現実に動かし、生産物を現実に生産する人ではなくて、資本家であった」

「この矛盾の内に現代の一切の衝突の萌芽が含まれている」

「機械は、労働者階級に対する資本の最も有力な武器となる」

「資本の蓄積があればそれに照応して貧困の蓄積がある」

  これにより衝突が周期的になり悪循環・恐慌が繰り返され、資本家の国家はますます国民を搾取する。

「階級支配と従来の生産の無政府状態に立脚する個人の生存競争がなくなってしまえば、そしてこれから生ずる衝突と逸脱とがなくなってしまえば、抑圧しなくてはならぬものはないのである、特殊な抑圧権力たる国家は必要でない」「国家は「廃止」(“abschaffen”)されるのではない、死滅する(absterben)のである。」

 ゆえに、社会主義は歴史的必然と結論づける。

 

 共産党宣言も、論理一貫した書物だが、こちらも負けず劣らず論理一貫した書物である。

 

ギリシア・ローマ ストア派の哲人たち セネカ、エピクテトス、マルクス・アウレリウス 國方栄二

2019年1月10日初版発行

 

帯封「ストイックに生きるとは? 樽の中で暮らす 足るを知る? 奴隷から哲学者に!

キュニコス派ディオゲネスから、ゼノンらの初期、パナイティオスらの中期、ローマ時代のセネカエピクテトスマルクス・アウレリウスの後期の思想の変遷を紹介。」

 

第1章 自然にしたがって生きよ―キュニコス派

第2章 時代が求める新しい哲学―ストア哲学の誕生

第3章 沸き立つローマの市民―ストア哲学の伝承

第4章 不遇の政治家―セネカ

第5章 奴隷の出自を持つ哲人―エピクテトス

第6章 哲人皇帝―マルクス・アウレリウス

終章  ストイックに生きるために

 

ストイックという言葉が、古代ギリシアストア派によって生まれたこと、ストイックの前には、シニシズムという生き方があって、ストイックはそこから生まれ、そこから独立したものであるという事実は、案外知られていない。

 

ゼノン

 耳が二つ口が一つなのは、より多く聞き、より少なく話すためである(DL Ⅶ 23)

 

セネカ

 閑暇は学びがなければ死に等しく、生ける人間の墓場でしかない(『倫理書簡集』82,3)

 われわれは長く生きるためではなく、満足のいく生を送るために思い悩むのでなければならない(『倫理書簡集』93,2)

 私はこの片隅だけに生まれたのではない。この世界の全体が私の祖国だ(『倫理書簡集』28.5)

 他人が幸福だと思う人ではなく、自分で自分を幸福と思える人こそ幸福である(『運命の対処法』16.10)

 

エピクテトス

 一般に、もし君がなにかをしようとするならば、常習的にするがいい(『語録』Ⅱ18,24-27)

 

アウレリウス

 お前にある内なるものを掘れ。お前の内には、もしも掘り続けるならば、つねにほとばしり出ることのできる善の泉がある。(『自省録』Ⅶ59)

 私は自分の義務を果たすのだ。他のことに心を奪われることはないのだ。(『自省録』Ⅵ22)

 人生は短い。熟慮と正義をそなえ、現在を無駄にしてはならない。(『自省録』Ⅳ26)

 

名言・名句集が巻末にあり、本文の該当ページと並べてあるので、ここから本文に戻るという読み方をすることもできる。また本文自体は時代を順に追って書かれているので、頭の整理にもなり、歴史の知識を深めることもできる。

ヴェルレーヌ詩集 堀口大學訳

昭和38年6月15日初版発行 昭和62年2月25日20版発行

 

1844年フランス生まれのポール・ヴェルレーヌは、解説によると「意志の弱い人間」「誘惑にとびついて行く質の人間」で、「愛妻も愛児も捨て、遠く海峡のあなた、イギリスへ出奔、放浪生活を続け、一年以上の長きに渡り、全く家庭をかえりみないという放埓ぶり」だが、「その作る詩の個性的で、調べの美しいことは、他に例類がない」「彼にとって詩は、真実であること、自分自身であること、すべてを告白して隠さないこと」「全部がその生活の実感から生まれて来ています」、「もしも詩の目的が、言葉を通じて心の感動を伝えることにあるのなら、何人もわがポール・ヴェルレーヌほどの詩人であった人間は、今日までに、まだひとりも存在しませんでした」。

 

詩集『やさしい歌』より

17 (そうしましょうね?)

 そうしましょうね? 愚者や意地悪い人たちが、私たちの幸せを妬んだり、

 そねんだりするでしょうが、

 私たちは出来るだけ高きにあって、常に寛容でありましょうね。

 ・・

 一番強い一番嬉しい絆に結ばれている上に

 金剛鋼の鎧を着ているのですから

 私たちはすべてを追いのけ怖いものとて知らないでしょう。

 

 運命が行末私たちの為め何いを用意しているか

 なぞは考えずに、歩調を合わせて歩きましょう、

 手に手をとって、混じりっけのない気持で愛し合う

 

 人だけが持つ無邪気な心で、そうしましょうね?

 

 

詩集『昔と今』より

 詩法

  シャルル・モーリスに与う

 ・・

 君が詩句に翼あらしめ

 魂の奥所より出で、別の空、別の愛へと

 天翔ける歌たらしめよ。

 ・・

 

 

名画はおしゃべり 「酔っ払いから王侯貴族まで」 木村泰司

2020年10月20日初版発行

 

帯封「気鋭の美術史家が軽妙酒脱に語る 1日1話、2週間で世界のビジネスエリートの教養を楽しみながら身につける “目からうろこの絵画の正しい見方”」「絵は口ほどに物を言う! 名画は“見る”のではない、“読む”のだ ◇デューラーブリューゲルルーベンス◇ハルス◇ヴァン・ダイク◇ヨルダーンス◇レンブラントフェルメールフラゴナール◇モネ◇ゴーギャンムンク

表紙裏「勝手気ままに自分の『感性』だけを頼りに絵画を鑑賞するのは恐ろしいこと。時代背景や作者の人生、作品が持つメッセージ…1枚の絵に秘められた『物語』を知ることで、絵画の世界が無限に広がるでしょう。デューラーレンブラント、モネ、ゴーギャンムンク古今東西の名画を『読み解いていく』ことで、時空を超えた美の回廊へとあなたを誘います。漫然と眺めるだけだった絵画たちは、あなたに何を語りかけるでしょう?さあ、名画たちのおしゃべりに耳を澄ませてみてください。」

 

第1話 芸術家も大変! アルブレヒト・デューラー『自画像』

    画家の社会的地位が職人から芸術家と昇格したのはルネサンス期のイタリア。ドイツからイタリアに移って自画像を何枚も書いた最初の画家デューラーデューラーの死後、フランスでも画家たちが社会的地位の向上を図って王立絵画彫刻アカデミーを創設し、アカデミー会員がフランス美術界を支配し続けると、これに反旗を翻そうと印象派が登場。

    日本は職人と芸術家、工芸品と美術品の境界が曖昧で、欧米とは大きく異なる。

第2話 魂の救済 ピーテル・ブリューゲル(父)『死の勝利』

    グレイド・レーニ『聖セバスティアヌス』はラファエロの精神を引き継ぎ、理想美を完成。コロナウイルス騒動で聖セバスティアヌス人気が再び高まるのでは?と語る。

第3話 真面目が肝心 ピーテル・パウルルーベンススイカズラの木陰のルーベンスとイザベラ・ブラント』

    バロック絵画の王と呼ばれるルーベンスはイタリア留学でローマの芸術運動を吸収した後、故郷に戻るとハプスブルグ家のネーデルラント総督の宮廷画家任命され、花嫁ブラントと結婚し、その記念で描かれた肖像画は等身大に近い全身肖像画でまるで貴族のよう。外交官としても活躍する。

第4話 ハルスに乾杯! フランス・ハンス『陽気な酒飲み』

    当時のオランダ風俗画はプロテスタント的倫理観がこめられていて、飲酒に対する戒めとして描かれている。

第5話 家族の肖像 アンソニー・ヴァン・ダイク『第7代ダービー伯爵 ジェームズ夫妻と子供』

    イングランドから宮廷画家として招かれたダイクは王妃の女官と結婚し自らの地位を固めた。さり気なく控えめなエレガンスのある画風が英国貴族に好まれた。

第6話 酔っ払いの戒め ヤーコプ・ヨルダーンス

    ルーベンス、ヴァン・ダイクと並んでフランドル三大画家巨匠のひとり、ヨルダーンスも、飲酒の戒めとして描いている。

第7話 割り勘は時空を超えて レンブラント・ハルメンス・ファン・レイン『夜警』

    集団肖像画でスターダムにのし上がったレンブラントだったが、「夜警」をきっかけに同じ金額を受取っていながら目立たない人が大勢いたために破滅の道を突っ走っていったという神話が生まれた。

第8話 地図で脳内トリップ ヨハネス・フェルメール『士官と笑う女』

第9話 虚飾の肖像 レンブラント・ハルメンス・ファン・レイン『フレデリック・リヘルの騎馬像』

    いち早く美術市場が発達したオランダで台所事情が厳しいレンブラントは裕福な商人の騎馬像を描くが、このころ既に破産し全ての財産を失っていた。

第10話 恋愛の品格 ジャン・オレノ・フレゴナール『ぶらんこ』

     ぶらんこに乗っている描写は性行為を暗示し、スカートの中をのぞき込んでいる若い男の左腕は彼が性的に興奮していることを表している。ロココ絵画は堕落したフランス貴族を象徴するものとして急速に衰退していった。

第11話 印象派人気の謎 クロード・モネ『睡蓮』

     印象派が好きならば、19世紀フランス文学(バルザックやゾラなど)を読むことを勧める、印象派の画家たちが描き出した世界の背景が理解でき、彼らが紡ぎ出した美の世界に深く入り込める、その結果、印象派絵画の持つ魅力がより深く理解できる。日本人の印象派好きは風土の中で培われたDNAのせいではないか、とも。

第12話 ボヘミアン狂騒曲 ポール・ゴーギャン『イア・オラナ・マリア』

     自らをボヘミアン的な芸術家としてセルフ・プロデュースしたゴーギャンこそ、現代の変人タイプの画家第一号であり、原型となった。

第13話 夕方の憂鬱 エドヴァルド・ムンク『叫び』

逢魔時という字からムンク「叫び」を思い起こし、夕方特有の不安感は日本特有のものでないことを改めて知った。

第14話 西洋絵画に描かれた猫

     エジプトでは大変尊重されていた猫だが、キリスト教の時代になると魔女の仲間と言われるようになり、プロテスタント文化圏では肉欲への戒めを諭す絵画の名脇役となる。