100分de名著 戦争は女の顔をしていない アレクシエーヴィチ 沼野恭子

 ソ連従軍女性たちの証言から、過酷な体験とリアルな感情を丹念に拾い上げ、「生きている文学」に昇華させたアレクシエーヴィチの代表作。新しい証言文学の可能性を開いた創作手法と不屈の精神に迫る。

 

 漫画化されたことで話題となり、本書を手にした。2015年ノーベル文学賞を受賞したことを初めて知った。そもそも従軍した女性が百万人近くに及ぶとも言われており、しかもこれらの女性が世間から差別され、男性からも女性からも侮蔑的な言葉を浴びせられて声をあげることすらできなかった、生々しい声が沢山取り上げられている(第3回)。しかも初版では検閲が激しく、多くの部分が削除され、これが日の目を見たのは、ペレストロイカ以降。

 アレクシエーヴィチは2016年に来日した際、福島県を訪れ、また東京外国語大学での講演では「新しい哲学が必要だ」と語ったとのこと。「自分が自然界の主人だと考えることはやめるべき」「動物の世界とつながっているという感覚」が大事だとも。著者は、自然との共生のための「新しい哲学」と「戦争は女の顔をしていない」から感じられる動植物への共感とは響き合っていると述べている。

 

 今度、漫画も読んでみよう。それにしても、丹念に証言を集めたアレクエーヴィチさんの執念とともに、証言された一人ひとりに感謝を捧げたい。過去の苦しい体験を話すこと自体、大変勇気のいることだったと思うし、忘れたいことを思い出させるわけだから、それを受け止めるアレクエーヴィチさんだったからこそ多くの証言を集めることが出来たのだと思う。

 この日本版的な小説・記録集は、日本のどこかにきっとあるはず。探してみたいと思う。