野火  大岡昇平

1975 年 9 月初版発行 2004 年 2 月第 22 刷発行

 作者のフィリピンでの戦争体験を基にしたフィクション。読売文学賞受賞作。作者の代表作の一つに数えられる。

 フィリピン戦線のレイテ島を舞台に主人公が肺病のために部隊を追われ病院からも入院を拒否され迷走する中、狂人と化していく。フィリピン女性を殺害し、同じ日本兵と合流するや、食糧難で猿肉と言いながら人肉を口にするあたりで、戦争とはかくも悲惨で人を狂人化させるものだということが嫌というほどに読者に分からせるものになっている。帰国して精神病棟に入院した後に医師に言われて回想記を書いているという設定になっている。いずれにしても読み進めるのに、結構、気力・体力が要る小説だった。