凧になったお母さん  野坂昭如 

1981年9月初版発行 1987年2月第9刷発行

 

 野坂昭如は自らの空襲体験をもとに戦争童話集を1971年の婦人公論に連載していた。第58回直木賞を受賞した火垂るの墓の原作者でもある。

 本書に収められた作品を含め、いずれも1行目が「昭和20年、8月15日」から始まっている。

 

凧になったお母さん

 母親が自らの汗を我が子に塗り付け、乳房を揉みしだいて子に乳を与え、体中の水分を全部失った母親は毛穴から血を噴き出し干物のようにぺったんこになって昇天する。そして次には子も。凧になって空に舞い上がるという童話の世界で描いた母子愛と戦争の残酷さを描いた名作である。

 

干からびた象と象使いの話

 戦争中、動物園の動物も次々と処分されていった。動物の担当者はえさを与えることができず、いずれ死にゆく動物の殺処分にしていたが、サーカスから一緒に園にやって来た象使いは象と一緒に逃げてしまい、その後、食べるものがなくなり先に死んでしまう。すると、やせ細った象が死んだおじいさんを背中に乗せて、ひょろひょろとどこかに行ってしまったというところで終わるお話。

 

 全て戦争犠牲者である。戦争は惨い。酷い。

 ウクライナの人々が本当に可哀想である。