声に出して読みたい日本語⑤ 心の琴線にふれる言葉 齋藤孝

2007年5月30日第1刷発行

 

「素朴な琴をおけば/琴はしずかに鳴りいだすだろう」 【詩】素朴な琴 八木重吉

はじめに

「情に感ずる事は、みな阿波礼なり」         【歌論】石上私淑言 本居宣長

 

第一弦 いのちを奏でる

「日めくりを一枚めくる私のいのちをめくる」     【短歌】柳澤桂子

「いのちだけが はだかで/はたらいているように見える」【詩】アリ まど・みちお

「母よ母よ息ふとぶととはきたまへ」         【短歌】坪野哲久

「支えられているから/立っていられる」       【詩】ささえられて・ハギ 星野富弘

「彼らに『シベリアおもちゃ』をつくらせたのは何か」 【学術エッセイ】人間の限界 下山徳嗣

「すきになる ということは/心を ちぎってあげるのか」 【詩】痛い 工藤直子

「この頃は一病を深く蔵して息災である」        【随筆】一病息災 内田百聞

「わしらは永遠に不滅の父と子なり」          【漫画】子連れ狼 小池一夫

「杢よい、堪忍せろ。堪忍してくれい」         【記録】苦海浄土 石牟礼道子

「それは、海が私の治療場だったちゅうことでした」   【記録】証言 水俣病 栗原彬・編

「仕事よりいのちおもへと春の山」           【俳句】飯田龍太ほか

「木/ぼくはきみのことが大好きだ」          【詩】木 田村隆一

「生ましめんかな/生ましめんかな/己が命捨つとも」  【詩】生ましめんかな 栗原貞子

「オカンの側にはずっといる。…ボクは迷わず、オカンを選ぶ」【小説】東京タワー オカンとボクと、時々、オトン リリー・フランキー

「ころげよといへば裸の子どもらは波うちぎはをころがるころがる」【短歌・俳句】相馬語風ほか

「蕣の花と共に、此世をしぼみぬ」           【俳文】おらが春 小林一茶

「しゃぼん玉 とんだ/屋根までとんだ」     【童謡】しゃぼん玉 野口雨情・作詞

 

第二弦 こころざしを奏でる

「まっすぐな一本の決心」              【詩】白葱 はたち よしこ

「私の詩は/一つの着手であればいい」        【詩】枕上口占 三好達治

「齢三十に垂んとして暫く己が進むべき道を知る」   【日記】神谷美恵子

「ああ だけど そんなぼくでも/あの子らは したってくれる」【主題歌】みなしごのバラード 木谷梨男・作詞

「死ぬ日まで空を仰ぎ/一点の恥辱なきことを」   【詩】序詩 尹東柱(伊吹郷・訳)

「胸の奥に この花あるかぎり/強く生きて みようと思う」【主題歌】花のささやき なかにし礼・作詞

「お前も耐えられます。明るい心で耐えねばなりませぬ」  【自伝】幼き日の思い出 新渡戸稲造

「口を開きて笑わざるは 是れ痴人なり」  【漢詩】酒に対す 白居易

「人間であるとは/すなわち、責任を持つということである」 【自伝的小説】人間の土地 サン=テグジュペリ齋藤孝・訳)

「二人はそこにすべてを忘れて、感激の涙にむせび合うた」【小説】恩讐の彼方に 菊池寛

「生きている人間とは、人間になりつつある一種の動物かな」【文芸批評】無常という事 小林秀雄

「一飯を進むるとても志を厚く」  【茶道】遠州書捨之文 小堀遠州

 

第三弦 かなしみを奏でる

「彼等は知らず、/かなしみに/果あることのかなしさを」【詩】彼等 堀口大学

「この道を泣きつつ我の行きしこと」 【短歌】田中克己

「あたしたちの一生は/ずーっと せんそうのなかだけだった」【絵本】戦火のなかの子どもたち 岩崎ちひろ

「中原よ。/地球は冬で寒くて暗い。/ぢゃ。/さやうなら」【詩】空間 草野心平

「それは色以前の愛しさなのだろうか」   【随筆】天青の実 志村ふくみ

「どうして僕はこんなにかなしいのだらう」 【童話】銀河鉄道の夜 宮沢賢治

「愚痴蒙昧の民として 我を哭かしめよ」  【短歌】釈迢空ほか

「子いわく、噫、天予を喪せり、天予を喪せりと」【中国古典】論語 孔子

「見れば、率てこし女もなし。足ずりをして泣けどもかひなし」【古典】伊勢物語

「節子の亡骸膝にのせ、うとうとねうっても、すぐ眼覚めて」【小説】火垂るの墓 野坂昭如

「御気分はくらくなって涙は昔の墨の跡に添って流れる」【古典】源氏物語 紫式部与謝野晶子・訳)

「子を生んでくれ。おれの子を。おれの名を語り伝える子どもを」【小説】死者の書 折口信夫

 

第四弦 ぬくもりを奏でる

「『寒いね』と話しかければ『寒いね』と答える人のいるあたたかさ」【短歌】俵万智

「かろき子は月にあづけむ肩車」  【俳句・童謡】石寒太ほか

「遠い地平線が消えて/深々とした夜の闇に心を休めるとき」【ラジオ番組】ジェットストリーム 堀内茂男・作

「神さんは、ゆーっくり、ゆーっくりおいでになられる」【随筆】ゆーっくり、ゆーっくり 吉村昭

「たのしみは 妻子むつまじく うちつどひ」 【短歌】独楽吟 橘曙覧

「この日向が、ふと、埋もれていた古い記憶を呼び出して来た」【小説】日向 川端康成

「手のひらに豆腐をのせていそいそといつもの角を曲りて帰る」【短歌】山﨑方代

「やっぱりあんはええ人じゃよ、正直で・・」【映画】東京物語 野田高梧小津安二郎・脚本

「憂きことを海月に語る海鼠かな」 【俳句】黒柳召波ほか

「あたいが鎹だって? 道理できのう金槌で頭をぶつと言った」 【落語】子別れ

 

第五弦 せつなさを奏でる

「こんなにも切なく/青じろく燃えるからだを」 【詩】こんなにも切なく 宮沢賢治

「微笑が妻の慟哭 雪しんしん」 【俳句・短歌】折笠美秋ほか

「だけど彼女はもっと心をこめて・さようならといったのさ」【詩】万事休す リチャード・プロティガン(中上哲夫・訳)

「お菓子も自由に食べられるかと思ったら、ふとして死んでしまった」【随筆】死んだ子 土門拳

「矢のごとく地獄に落つる躓きの石とも知らず拾ひ見しかな」【短歌】山川登美子

「もうすぐ冬になりそうな夜、息子と私は、猫を待っている」【随筆】私の猫たち許してほしい 佐野洋子

「与ひょう、あたしを忘れないでね。あたしもあんたを忘れない」【戯曲】夕鶴 木下順二

「智恵子はもう人間界の切符を持たない」【詩】値ひがたき智恵子 高村光太郎

「ごん、お前だったのか。いつも栗をくれたのは」【童話】ごんぎつね 新美南吉

 

第六弦 あこがれを奏でる

「命にかけて、憧憬れて、それを聞きたいと思いますんです」【小説】草迷宮 泉鏡花

「彼女の白い腕が/私の地平線のすべてになった」【詩】地平線 マックス・ジャコブ(齋藤孝・訳)

「ガサッと落ち葉すくふやうに私をさらって行ってはくれぬか」【短歌】河野裕子

「このときの尾崎のあの大きな笑い声の中にあった天真さを」【随筆】一瞬の間のラブシーン 宇野千代

「『みんなを愛したい。』と涙が出そうなくらい思いました」【小説】女生徒 太宰治

「雪のふる日は聴える/どこできいたこともない唄がきこえる」【詩】子守唄 室生犀星

「海恋し潮の遠鳴りかぞへては少女となりし父母の家」【短歌】与謝野晶子

「亡父は/童子と成りて/円き肩銀河を渡る」【詩】漂白 伊良子精白

「死を待っていると、故郷の懐しい景色が次から次へと浮んで来ます」【手記】きけ わだつみのこえ

「兎追いしかの山、小鮒釣りしかの川」【唱歌】故郷 高野辰之・作詞

「鳥はとんでるときには決してしたを見ないものなんだよ」【警句】飛翔 寺山修司

「志貴島の日本の国は事霊の佑はふく国ぞま福くありこそ」【万葉集柿本人麻呂

 

一つ一つをじっくりと味わいたいですね。