人間失格  太宰治

1982 年 1 月初版発行 1997 年 4 月第 13 刷発行

はしがき
 三葉の男の写真。1 葉は 10 歳前後の写真(気味悪く醜く笑っている)。2 葉は学生姿(巧みな微笑)。3 葉は年が分からない(頭は幾分白髪。何も印象に残らない)。

第1の手記
 有名な「はじの多い生涯を送ってきました」から始まる。
小学生の自分は他人をまるで理解できない。自分の本心を隠して道化て人をあざむいて生きる。

第2の手記
 中学時代、道化を演じた自分が見破られ、驚愕する。旧制高校に進み、悪友堀木と酒におぼれ、女性と一緒に入水自殺を図ろうとすると自分だけ助かり、血痰が出ていたこともあり、自殺幇助罪については起訴猶予で終わる。

第3の手記
 自分は漫画家となり、堀木を頼り、女性と同棲を始める。酒におぼれ、堀木と罪の対義語探しに興じ、女性が隠していた睡眠薬を多量に服用するようになり、モルヒネにも手を出し、最後は脳病院に入院させられ、「ここから出ても、自分はやっぱり狂人、いや、廃人という刻印を額に打たれることでしょう。人間、失格。もはや、自分は、完全に、人間ではなくなりました」とつぶやく。退院後、故郷すぐ近くの温泉地に兄の助力で住む。そこの女中に犯され、胸の薬と思って飲んだのが下剤。眠ろうとして下剤を飲み、「いまは自分には、幸福も不幸もありません。ただ、いっさいは過ぎていきます。自分がいままで阿鼻叫喚で生きて来たいわゆる『人間』の世界において、たった一つ、真理らしく思われたのは、それだけでした。ただ、いっさいは過ぎていきます。自分はことし、二十七になります。しらががめっきり増えたので、たいていの人から、四十以上に見られます」と言っておしまい。

あとがき

 わたしは、この手記を書き綴った狂人は知らない。が、手記に出てくるマダムから手記を預かり、「お父さんが悪い」となにげに言い、「わたしたちの知っている葉ちゃんは、とてもすなおで、よく気がきいて、あれでお酒さえ飲まなければ、いいえ、飲んでも、・・神様みたいないい子でした」で終わる。

 

 孤独。人を理解できないが、それを隠すために道化に徹しつつ、恐怖を抱き続ける。そんな自分を周りは愛してくれている。そのギャップが通底音として静かに鳴り響き続ける。この暗さが多くの読者を引き付けてやまない。