アーサー王物語 阿刀田高

1998年9月21日第1刷発行 2005年3月4日第5刷発行

 

面白い、の一言に尽きる。

筆者のあとがきによると、あまたあるアーサー王物語の中から、幹を取り上げ、血わき肉おどる部分を外さずに書いた、とのこと。山本史郎さんの解説によると、今から1500年前頃の話を、更に時代が下って12世紀の半ばにジェフリー・オヴ・モンマスが『ブリテン島の歴代王』と題した本が登場し、そこから堰を切ったようにアーサー王と円卓の騎士たちの物語が次々と世に送り出されたとあった。

冒頭で有名な名剣「エクスカリバー」が登場し、騎士のトリスタンと王女イゾルデの悲恋は胸を焦がさずにはいられない。マルク王とイソルデのために調合した妙薬入りのワインを間違って飲んでしまった二人が互いに恋焦がれつつも身悶えしながら別れていく。もう1人とイゾルデと結婚したトリスタンは結局妻の言葉を信じて命を失い、妻は自らの言葉に嘘があったことで良心の呵責に苛まれる。

ラーンスロットは禁断の恋心を抑え込むために苦しみ抜き、最後はアーサー王と対立してしまう。アーサー王は円卓に騎士たちが勢ぞろいした後、遂に坂を転げ落ちるかのように騎士たちが分裂して非業の死を遂げる。

という、次から次へと、昔から人間の業というのか、古今東西を問わずに、空想力を駆使して、こんな面白い小説が書かれ、代々読み継がれてきた歴史に驚かされます。こんなスケールが大きくて、人とは何ぞや、との根本的な問いを発しながら、さらにその上で、次々に面白い話を展開できる作家は、今、どこにいるのかしら?