そして、バトンは渡された 瀬尾まいこ

2018年2月25日第1刷発行 2018年8月10日第7刷発行

 

2019年本屋大賞

家族を持つ、というのは、こういうことだ、との、当たり前と言えば当たり前だけど、ほのぼのする小説です。特に、子を持つというのは、明日が2倍になる、という梨花の言葉には、ハッとさせられます。子どもがいたらその子どものために生きよう、結婚相手に子どもがいたら、自分たちの人生+子どもの人生で2倍とさり気なく言えるって素敵ですね。主人公の優子さんのお母さんは主人公が小さい時に病死し、優子さんと血のつながった父親との再婚相手の梨花さんが前半でとてもいい味を出しています。若くて綺麗でシャキシャキして自由奔放に生きていくタイプの梨花さんは、夫がブラジルに単身赴任する時、日本に残ります。その時、優子さんは日本に残るかお父さんと一緒にブラジルに行くか選択を迫られ、結果、幼さもあって、日本の友達を優先し、梨花さんとの日本での生活を選択し、お父さんのブラジル行きについていきません。梨花さんとの生活は当初極貧ともいえる生活を続けるわけですが、微笑ましい位それでも楽しく生活していく。そんな最中、優子がピアノが欲しいとたった一言いうと、梨花さんはお金持ちと再婚して、優子さんにピアノを与えてあげて、思う存分ピアノが弾ける環境を作ってあげる。そのお金持ちとなぜだか離婚して梨花さんが小説から一旦消えてしまい、次に優子さんには東大卒で一流企業に勤めるちょっと変わった男性が父親として現れて大学受験勉強をして無事合格する。その合格の過程で高校の合唱祭のピアノ伴奏をするが、その時に知り合った他のクラスのピアノの天才のような同級生のピアノの音に感動し、卒業後、運命のような再会を果たして、結婚報告を東大卒のお父さんに話したら意外にも納得してくれず、どうしたら納してくれるか知恵を絞る。この同級生はピアノをあきらめピザ職人を目指したりハンバーグ職人を目指したりしてイタリアやアメリカ留学を繰り返すという風来坊のような生活をしていたため父親から結婚を許してもらえない。そのためにこの父親は梨花さんと結婚していた相手だったので、それなら父親の説得は最後に回し、それ以外の親たちから先に祝福してもらう作戦に変更して、優子さんは梨花さんに久しぶりに再会して、結婚賛成を取り付ける。そして、実は梨花さんが実の父親からの100通を超える優子さん宛ての手紙を隠していたことを知らされる。そしてどうして梨花さんが優子さんの前から突然いなくなったのかの種明かしが始まる。なんと梨花さんは病気にかかって恐らく死んでしまう。梨花さんは実の母についで次の母である自分まで死んでしまったら優子さんがかわいそうだと思い、優子さんを育ててくれる人を探すため東大卒の変わった人と再婚し、その人に優子さんの面倒を見させる約束をして間もなく別れてしまい、その病気の治療のためにお金がかかるので裕福な人と再婚して入院生活を続けていた(病気の発覚は東大卒の変わった人との再婚後だったかもしれない)。ところで、実の父からの沢山の優子さん宛の手紙は、梨花さんは結局優子さんに渡される。けれども、優子さんはお父さんが再婚していたことを知り、新しい生活を壊したくないから読まないでいたら、東大卒の風がわりなお父さんがその手紙を読んでしまい、実父がいかに深い愛情を優子さんに持っていたかを知るや、結婚式当日に実父を呼んでしまって、実父と優子さんとの感動の再開が実現する。そして優子さんは新郎と新しい旅立ちを始める。まさしくタイトルにあるとおり「そして、バトンは渡された」です。多くの親たちから愛情一杯に育てられ、そして次に子どもが結婚して、新しい家族がまた愛情を受け継いで子どもが生まれたらまた愛情が受け継がれていく、そんな、とてもほのぼのとした、心温まる一書でした。