風林火山 井上靖

昭和33年12月5日発行 昭和44年1月16日19刷改版 昭和53年4月10日38刷

 

信玄の軍師・山本勘助が、武田軍に滅ぼされた那須家から信玄の側室として嫁いだ由布姫に心密かに慕うというか慮る姿がいじらしい。勘助は、信玄と由布姫の間に生まれた晴信を次期当主にすることを望みつつ、川中島の合戦に望む。が、勘助の策は上杉謙信に読まれてしまい勘助は命を落とす。そして遂に信玄と謙信が相見える戦いに突き進むというところで小説は終わる。勘助は信玄の将としての才を、信玄は勘助の軍師としての才を互いに認め合っている関係も読みごたえがある。

巻末解説で吉田健一は「由布姫は、信玄が必要であればいつでも自分を殺すことを知っているし、又自分の寿命がもう長くはないことを信玄が知っていることも見抜いている。そしてそれならば、それと同じ態度で信玄は由布姫に惹かれ、勘助を信頼し、そして勘助は由布姫と信玄に一切を捧げていると言える。ここでも、山の冷気が我々に迫って、刀の刃の色が冷たいか、温かいかはそれを見るものの状態、或いはそれよりも寧ろ、人生についての覚悟の仕方によるものであることが解る」と、そのあたりのところを上手にまとめている。