東大女子という生き方 秋山千佳

2022年3月20日第1刷発行

 

「孤独、挫折、ハラスメント… 誰もがぶつかる『人生の壁』をどう乗り越えたのか」

中野信子 『出世と人生の満足度とは違う』37歳頃たどり着いた境地

 赤松良子 『なにさ』『頭にくる』“均等法の母”が感じた不条理

 山口真由 『自己肯定感を持たなきゃ、持たなきゃと思っていた』

 栗崎由子 53歳でリストラ 200通の履歴書も『なしのつぶて』

 北村紗衣 『学問は裏切らない』という考えでやってきた

 三輪記子 東大進学は『親の支配から逃れられるアイテム』

 豊田真由子 『絶望の中で、人間の本性も絆の真贋もはっきりと見えました』

 藤田優  『人の価値はテストの点数だけでは測れない』

 宮下里美 親が非大卒の学生への『サポートが手薄』だった

 あられ(ハンドルネーム)『本当に私は結婚できないのか』婚活ブログで検証」

表紙裏「『東大卒の女性たち』はたとえ人生の壁にぶつかっても、泣き寝入りでは終わらせない。個の力を磨き、何歳からでも自分の人生をやり直し、切り拓く。彼女たちこそ、次代の『働き方』の開拓者だったー。」

 

第1章 東大女子は第二東大生? 中野信子(1998年工学部卒)

    東大を選んでよかったと思うことは?との質問には、面白い人たちに出会えたのが財産と答え、工学部を卒業後、東大大学院の工学系研究科修士課程、医学系研究科医科学専攻修士課程と進む中で、女性では認めてもらえないと感じるようなことはあったか?との質問には、いっぱいあった、こんなところで論文を書いても…という気持ちになり、アカデミズムの世界で生きていこうという気がどんどんなくなった、男性原理の中でキャリアアップしなきゃと格闘していたのは30代前半まで、と語る。そしてアカデミズムの資産を一般に還元する仕事はやらなきゃいけないと思って、第三の道として自らの満足度に重きを置く生き方を模索できるようになってきていると語っている。

 

第2章 均等法の前と後 赤松良子(53年法学部卒) 栗崎由子(78年教養学部卒)

    赤松は労働省婦人局長として均等法成立の立役者となり、その後細川内閣、羽田内閣で文部大臣を務め、現在では日本ユニセフ協会会長を務める。

    栗崎は78年に日本電信電話公社(のちのNTT)に入社し、その後経済協力開発機構を皮切りにヨーロッパで長く働く。

    赤松はこの章の最後で、女性の解放というのは、平塚らいてうとか市川房江とか、苦労してきた女性たちの長い列がある、そういう列に私も加わった、後から来る人には言いたい、あなたにもその列に加わってほしいと。それが若い女性たちに私から伝えたい言葉です、と語る。

 

第3章 過剰順応の果てに 豊田真由子(97年法学部卒)

    三度の飯より勉強が好きで、桜蔭中・高、東大法学部卒、厚生省入省い、月300時間残業や泊まり込みも自己肯定感が低くて必要とされると嬉しかったのもあり男性と同じようにやっていた、ハーバード大学大学院への国費留学も経験し、働き甲斐を感じて1日20時間労働をこなしキャリアを保ったまま2人の子を出産。超えられないハードルはないという生き方をしてきた豊田に超えられないハードルが存在した。それが政治の世界だった。しかしどん底を経験し、励まし続けてくれる本当に大切なものを感じる強さを持った。おばけが怖いという子供にはこの世で一番怖いのは生きている人間だよと教えているという。なぜこのような彼女があそこまで暴言を秘書に吐いてしまったのだろうか?真相は不明である。本人は何も語らないので全く分からないが何か裏があるように思われる。

 

第4章 優等生という病 山口真由(06年法学部卒)

    オール優で東大法学部を首席で卒業し司法試験と国家公務員1種試験に合格。財務官僚を経て弁護士となり著名な法律事務所に勤務後ハーバード大学ロースクールに留学、東大大学院博士課程を修了して現在は信州大学特任教授でありコメンテーターとして活躍中。そんな彼女は自己肯定感が低く疲れ果てて王道を飛び出た山口だが、今は期待コウモリになりたいという。ある時は鳥類、ある時は哺乳類みたいな顔で、あっちの期待からこっちの期待へと飛び回る、という。あくなき承認欲求が多いタイプだと自認し、強者でもあり弱者でもあると学んで複雑さに絶える素養を身につけることで人生をカラフルにしていくという意味で女性に生まれてよかったと思うとも。反対に東大の男子は画一的なエリート象に縛られてモノクロな生き方を強いられて気の毒に思うとも。

 

第5章 少数派の地方公立出身者 宮下里美(仮名、07年教育学部卒) 北村紗衣(06年教育学部卒)

    宮下も北村も公立高校出身。東大は中高一貫の私立・公立からの入学者が75%前後いるため、公立高校出身者はマイノリティとなる。女性だと一層マイノリティ。北村は「できるだけ優しく、お世辞を使って男性を称賛し、自分に脳みそがあるなどということは悟られないようにしなさい」と女性に囁く「家庭の天使」に染まらないように高校から気を付けていたものの、「内なるマギー」(心の中にある男社会でバカにされず立派な人間として認められたいという野心を象徴している)はいるが、それにさよならを告げられるようになった、と語る。

 

第6章 結婚の「王道」 あられ(ハンドルネーム、08年工学部卒) 三輪記子(02年法学部卒)

    7割が東大卒男性と結婚する東大女子。婚活アプリ・ブログを使って50数人と会い現在の夫にようやく出会ったというあられさん。

    逆に東大卒男性ではなく帝京大学出身の小説家樋口毅宏を夫に持つ三輪さん。樋口さんの『男の子育て日記』は読んだことがないが、結構面白そう。妻のエピソードが赤裸々に描かれているらしい。三輪さんは東大陸上部が最も男尊女卑を感じる世界だった、母親から重圧を感じたが、勉強で母親と距離を置くことができ笑いに変えることができるようになったと語る。

 

第7章 東大男子もつらいよ 

    東大卒の書籍ライター、池田渓(06年農学部卒)の『東大なんか入らなきゃよかった 誰も教えてくれなかった不都合な話』を中心に語られている。

    後半では、56歳で第31代総長に就任した藤井輝夫による東大改革に期待が寄せられている。

 

第8章 新しい世代へ 藤田優(20年教育学部卒) 上野千鶴子(東大名誉教授)

    藤田さんの卒論「東大インカレサークルで何が起こっているのかー『東大女子お断り』が守る格差構造―」は東大を起点として国内の男尊女卑が拡大再生産されていることに警鐘を鳴らす。

    上野教授は外様で入った自分は早い時期からコースを外れていたと語るが、93年には文学部助教授となり、翌年東京大学女性教官懇話会をつくり、ハラスメント相談所やストーカー事案に専門的に対応するための委員会を立ち上げるなどした。

 

エピローグで、著者は東大女子である彼女たちの魅力は、再起力=レジリエンスにあった、と書く。数々の試練によってしなやかさを備え、自身の幅を広げるたくましさを得ていた。それを下支えするのが、学び続ける力と、学んだことを活かす力だった、とも。

これは東大女子に限る話では決してない。すべての人、に当てはまると思う。