2018 年 10 月 15 日初版第 1 刷発行
帯封に「日本 韓国 北朝鮮 中国 ロシア 揺れる北東アジアをめぐる諸問題を 作家・
佐藤優氏と国際法学者・金惠京氏が語り合う 地球を包む 未来への対話。分断は悪、結合は善」「主な内容 1章 北東アジアのデモクラシー革命 2 章 朝鮮半島の過去・現在・
未来 3章 日本政治の課題解決に向けた方策 4章 北東アジアを結ぶ思想と民主主義」
とある。
1章で、佐藤氏は「ナショナリズムを超える共通の価値観」によって国を超えて結ばれる可能性を示唆する。その例としてキリスト教など世界宗教を挙げる。ちなみに 1952 年に日本が独立を回復した時、日本にある米軍専用施設の 90%は本土にあり、沖縄にあったのは 10%だけだったのが、それから 20 年を経て沖縄が日本に返還された時、比率は 50%ずつになっていた。普天間基地の海兵隊も元々は岐阜県と山梨県にいたのが 50 年代に沖縄に移った、そして現在は沖縄に 70%が集中している、と佐藤氏が語っている(この歴史そのものを本土にいる日本人は知らなくてはならないだろう)。
2章では、両者は「朝鮮国連軍地位協定」の存在を指摘し、この協定からすると、朝鮮半島有事の際に日本は直ちに在日米軍基地を提供せねばならず、物資・食料を含めた兵站の補給もしなければならないことになっていると述べ、外務省もアリバイ的に「朝鮮国連軍と我が国の関係について」という頁にもその趣旨のことが書かれていることを紹介している。また金正日が一度は核開発をやめようと決意したのにそれがひっくり返ったのは BDA に対する制裁が強化されたために北朝鮮関連資金が凍結されたからである、これは外交的には失策だったと分析している。
3章では、佐藤氏が、初期ナチスの理論家であった法学者オットー・ケルロイター(戦前に東大で教えた時期もありミュンヘン大学法学部教授)は『ナチス・ドイツ憲法論』で“ワイマール憲法がどうであれ、憲法と矛盾するような『血の純潔法』や『国防法』などさまざまな法律を作ることによって、実質的に憲法の内容を変えてしまうことができる”と主張し、解釈改憲によってワイマール憲法を実質的に変えてしまったという歴史を紹介している(歴史の教訓を学べということだと思う)。また佐藤氏は「国体論」とは「日本は天皇を中心にして成り立っている国だ」という考え方であるが、沖縄は天皇神話に包摂されない領域であるとも指摘する。更に「人間主義による連帯」こそが北東アジアをつなぐ紐帯になりうるとも指摘。
4章では、佐藤氏が北朝鮮を知る情報サイトとして有益なネナラ(北朝鮮政府が事実上運営)を紹介し、2年前の米朝首脳会談の意味を解説する。また佐藤氏は「軍事力を用いた国境線の変更だけは絶対にしてはいけない」と訴える。その線引きだけをしっかりしたうえで、民衆の英知に委ねることで諸問題の解決を探っていくという方向性を導き出している(したがって、昨今のプーチンの軍事力を用いたウクライナ侵攻は絶対に許されないということなんだろうと思う)。金氏は、今後の北東アジアの平和に向けて、「政治が市民の平和や対話を望む声を意識する構造」「人々が政治について学ぶ意識の向上」「他者の痛みを思いやるための国内外のネットワークの広がり」が重要であると述べる。これに対し佐藤氏はナショナリズムを超克する価値観が必要であると述べ、ヨーロッパでは「ヘブライズム」「ヘレニズム」「ラティニズム」(ローマ法)の3つの価値観が生まれたが、北東アジアではまだないから、これから作っていかなくてはならないと結論づけている。