ゲノムに聞け 最先端のウイルスとワクチンの科学 中村祐輔

2022年3月20日第1刷発行

 

帯封「コロナと戦うすべての人に1  ノーベル賞有力候補の研究者が優しく教えます 変異ウイルスはなぜ感染力が強くなるのか? アジアの致死率が低いのはなぜ? 日本のPCR検査は世界142位 mRNAワクチンとヤマサ醤油 変異型にも効く万能型ワクチンの可能 性」「中村先生とのQ&A Q.がん治療に取り組んでいる中村先生が、なぜ新型コロナウイスルの話をするのですか? A.私はもともと外科医でしたが、手術によるがん治療に限界を感じ、『がんとは何か』を解明しようと遺伝子研究の道に進みました。21世紀初頭、ヒトの全遺伝子情報を解析するのに10年の歳月と3000億円を要したのが、いまや時間もコストも100万分の1となり、世界では病気の診断も治療も新薬開発もゲノム解析とIT技術を駆使する時代がすでに始まっています。コロナのmRNAワクチンも、がんワクチンとして開発されていた技術を応用したものです。本書を書いた理由は、最新医療のお話を知っていただくことが、みなさんの身体を守る最強で最大の武器になると思ったからです。」

表紙裏「いまだ世界的に感染収束が見通せない新型コロナウイス感染症。変異を繰り返して感染力を増すウイルスと戦うためには何が必要なのか。生物やウイスルの設計図である「ゲノム」の視点から、ウイスルとワクチンに関する最先端の知見をわかりやすく解説する。」

 

はじめに

第1章 すべてはゲノムが教えてくれる

第2章 新型コロナウイスルのすべて

第3章 検証・科学なき国の感染対策

第4章 ウイルス - 宿主に寄生し増殖する「無生物」

第5章 ウイルスvs人体 - 戦う細胞・免疫

第6章 ワクチン - 感染症から人類を守る救世主

第7章 「万能型」新型コロナウイスルワクチンの可能性

おわりに

 

第1章

・私のゲノムと他の人のゲノムは99.9%一致。ヒトとチンパンジーのゲノムは96%程度、ネコとは90%程度一致していると言われている。

・ヒトゲノムを一冊の本にたとえると、塩基がインクの役割を果たし文字でもあり、AGCTという4つの文字だけで書かれている。紙や糊などの役割を果たすのはリン酸や糖。

RNAはT(チミン)がU(ウラシル)に置き換わっている。タンパク質は10万種類もあって本が分厚く、一つのタンパク質をつくるために持って歩くわけにはいかないので必要な情報だけを小さな用紙にメモ書きして持ち運ぶ。これをDNAからRNAへの転写という。タンパク質の情報だけが書かれたメモがmRNA

・DNAからRNAに転写される際にはミスコピーは起こることは滅多にないが、RNAからRNAが複製されるときにはミスコピーが起こりやすなる。

コロナウイルスRNA型ウイルスで増殖の際にRNAのミスコピーを起こしやすいから頻繁に変異ウイルスが出現。

 

第2章

・インフルエンザの致死率は0.1%、新型コロナウイルスはワールドメーターのデータによると2%の致死率なので、20倍の致死率となる。

・重症化についての論文によると、呼吸管理が必要となるリスクは4倍、致死率は3倍以上。

二酸化炭素と酸素を入れ替えてから血液を体内に戻す人工肺がエクモ。数週間しか利用できないのでその間に肺炎を治療するが間に合わなければ命は救えない。

 

第3章

・感染急拡大した時点で2類相当から5類相当に引き下げ大規模なPCR検査を実施すべきだった。少なくとも2020年末までには1日1万件の検査が可能となり1検体1000円弱で実施できるようになったのだから400台を全国に配置すれば1カ月で全人口を検査可能だった。ニュージーランドは感染拡大防止策に成功して市中感染者ゼロの状況を続けた。日本の感染者数が少ないというのはPCR検査の実施率が低いからである。

・新たな変異ウイルスの解析は外国頼みだった日本政府。かつてはゲノム解析に高額な費用がかかったが、現在なら人件費を別として1件3000円程度。100万件で30億円だから、それほど高額でもない。アルファ型の感染拡大を最小限に食い止めることをせず、そのまま第4波で医療崩壊を起こしたのは人災の部分もある。2021年7月下旬のデルタ株による第5波は次元を異にし8月25日には全国で感染症療養者数21万1157人に達してもコロナ難民が続出。ワクチン一本やりの対策は人災である。デルタ型はウイルス産生量が1000倍。

・ワクチン接種後に亡くなった合計1255人の死因は未だ不明。積極的に因果関係を解明しようとしていないことは問題。なぜ遺族の了解を得て病理解剖しないのか。後遺症対策にも無関心と言われても仕方ない有様。

・日本で致死率が低いのは2019年以前に獲得された免疫が重症化の歯止めになっている可能性がある。したがってそれをすり抜ける変異を起こした新たな変異ウイルスが出現すれば桁違いのパンデミックを引き起こす危険性がある。

 

第4章

・寄生しなければすぐに死んでしまうとされるウイルスは、生き物ではないので死ぬ(感染力を失う)という表現を用いることに矛盾があるが、それでも紙幣やスマートフォンの表面で28日間生存したケースが報告されている。

・高血圧症の人は治療のためACE阻害剤を服用している人が沢山いるが、ACE1の受容体の働きを抑えると同時にACE2の発言が増えるため、新型コロナに感染しやすく重症化しやすいのでワクチンが優先された。

 

第5章

 “はたらく細胞”を読んだおかげでだいぶ免疫の章についても理解が深まった。ただ断然こちらの書物の方が詳しく少しついていけなかった箇所もある。

 

第6章

・江戸中期の秋月藩藩医の緒方春朔は清国の医師・李仁山が伝えた人痘法を改良し種痘を実施し全国の普及に尽力した。ジェンナーの牛痘法、北里柴三郎破傷風菌に対する血清療法など次々にワクチンを開発して感染症を戦い続けてきた人類は遺伝子ワクチンを開発し、mRNAワクチンを製造できるまでに至ったが、保存や管理が難しいという弱点がある。

・日本はmRNAワクチンに見向きもしなかったため新型コロナウイルスワクチンが一向に開発できなかった理由の一つである。がん研究でmRNAワクチンは海外では研究が進んでいたので、がんワクチン療法に取り組む研究者の一人として著者としては残念でならないという。

 

第7章 

・ウイルスの変異しくにい部分を標的とした細胞性免疫を利用して長期間効果が低減しない万能型ワクチン開発のため、がんペプチドワクチン療法を参考にして、ペプチドワクチンを開発し、T細胞の増殖を誘導する効果を維持し感染や重症化を防ぐ可能性があるので、それを目指すべきではないかと提言している。

 

 新型コロナウイルスとワクチンについて随分勉強になる良書の一つだと思います。