重要証人 ウイグルの強制収容所を逃れて サイラグル・サウトバイ アレクサンドラ・カーヴェリウス 秋山勝(訳)

2021年8月6日第1刷発行

 

サイラグル・サトウバイ 新疆ウイグル自治区出身のカザフ人。1976年、イリ・カザフ自治州に生まれる。元医師・幼稚園園長。2017年11月から翌年3月まで新疆の少数民族を対象とした強制収容所に連行され中国語教師として働かされる。収容所から解放された直後、今度は自身が収容者として収監されることを知って故国の隣国カザフスタンに逃れるが、不法入国の罪に問われ同国で裁判を受ける。この裁判で中国政府が「職業技能教育訓練センター」と称する再教育施設の実態と機密情報について証言、裁判は一躍世界的な関心を呼び、ニューヨーク・タイムズワシントン・ポストフランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングなどの主要メディアで報じられる。カザフスタン政府は亡命申請を却下、滞在許可が切れる直前の2019年6月に国連のとりなしでスウェーデン政治亡命。現在、安住の地となったスウェーデンで夫、娘、息子の四人で暮らしている。中国の強制収容所の実態については現在も積極的に発言を行い、その活動に対して2020年にアメリ国務省から国際勇気ある女性賞(IWOC)、2021年にはニュルンベルク国際人権賞が授けられた。

 

アレクサンドラ・カーヴェリウス ドイツのジャーナリスト。多数の有力誌に寄稿するほか、政治問題に関するノンフィクションを刊行して高い評価を得ている。主な著書に、ノーベル平和賞の候補者に繰り返し選ばれているラビア・カーディルの半生を描いた『ウイグルのは母 ラビア・カーディル自伝―中国に一番憎まれている女性』(武田ランダムハウスジャパン)がある。本書はサイラグル・サトウバイとの何度にもわたるインタビューに基づいたものである。

 

第3章 口をテープでふさがれて

3歳半になった息子ウラガートが入園からしばらくすると幼稚園に行くのを拒むようになる。ウラガートは「ぼくの口をふさいで、しゃべらせてくれないんだよ」と言っている。しゃくりあげて泣くとぎれとぎれの話から、幼稚園の中国人教員が、カザフ語でほかの子供たちと話さないよう、ウラガートの口に粘着テープを貼りつけていたのを知った。私もワーリも驚いて顔を見合った。・・幼稚園に問い合わせると、息子の話にまちがいはなかった。母語で話すカザフ人の子供全員が口にテープを貼られて一日中過ごしていた。

 

第5章 完全なる支配―尋問とレイプ

 2017年10月、当局はカザフ人と中国人を対象にした、「家族になろう」というプログラムを決定した。このプログラムにしたが、カザフ人は毎月8日間、中国人一家と生活をともにしなければならなかった。・・中国人の男には、妻と同じように私たちの体を自由にできる権利が認められていた。中国政府のおぞましい計画のなかでも、この計画は私たちにとってとどめを刺すものであり、自分の体は自分のものという意志さえ、彼らは奪い取ってしまった。もしも女性―あるいは少女が抵抗しようものなら、相手は当局に苦情を訴える規則になっていた。「彼女は自分の義務に応じようとしない」。すると警察官がやってきて、少女を収容所へと連行していき、従順の意味を彼女に徹底して叩き込む。

 

第6章 収容所―地獄を生き延びる

 彼らが私の手に押しつけた書類には、政府の「三段階計画」が記されていた。

 第1段階(2014~2025):「新疆において同化する意志を持つ者は同化させ、そうでない者は排除せよ」

 第2段階(2025~2035):「中国国内での同化完了後、近隣諸国が併合される」

 第3段階(2035~2055):「中国の夢の実現後はヨーロッパの占領」

 

第7章 「収容所で死ぬくらいなら、命がけで逃げよう」

 2018年3月―釈放、脱出、拘置

 

第8章 カザフスタンー北京政府に介入される国

 2018年7月9日―裁判初日 7月13日―裁判2日目 7月23日―裁判3日目、判決の日

 軟禁生活―荒らされた家、地下収容所と水中監獄、脅迫―「弁護士を変えることはできない」

 

第9章 ウイルスー世界への警告

    コロナウイルスより恐ろしいのは、心のウイルスである、と警告する。

 

あとがき

 2017年、北京で開催された第19回中国共産党全国代表大会を映した動画で教育大臣の陳宝生が演説で「2049年の時点で、中国の教育制度は世界の主要な教育システムとして受け入れられているだろう」「その年までに、世界の教育システムは中国共産党が主導し、既定するようになる。世界の教育システムは中国が決定する」「全世界が中国に服従して、党から提供された教科書のみを使用する」「中国の教育制度が世界中のあらゆる学校に導入される。すべての生徒に対して中国語で書かれた教材が与えられ、生徒たちは中国語を話すようになる」

 

解説 真実の声は必ず世界の知るところとなる 櫻井よしこ

 モンゴル人に対しても中国共産党は暴虐の限りを尽くしている。南モンゴル出身の文化人類学者、楊海英氏が世に問うた1万5千ページに上る「モンゴル人ジェノサイドに関する基礎資料」には、モンゴル人の家族のおよそすべてが体験した中国共産党による「モンゴル人ジョノサイド」の実例が記録されている。