中国vsアメリカ 宿命の対決と日本の選択 橋爪大三郎

2020年12月30日初版発行

 

 裏表紙の裏に「米中対決の時代がやってきた。歴史の針はもはや逆回しにはできない。これは米ソ冷戦とはまた違った、世界史の大事件である。年々存在感を増していく中国―私たちは何をどう考えればよいのか。中国共産党という不思議な存在の正体とは?中国のナショナリズムとは?香港、台湾はどうなる?起こりうる軍事衝突のシナリオとは?政治・外交に携わる人、ビジネスパーソン、一般市民も必読の、これからの『米・中・日』関係入門。」とある。

 日本には、西欧の概念を翻訳した漢語が、ワンセット存在した。でも中国には、存在しなかった。存在しなかった理由は、第1に、中国の知識人が、蘭学にあたるような取り組みに熱心でなかったから。中国では儒学の枠組みが日本よりもずっと強固だった。第2に、、清朝が西欧の影響を警戒してそうした取り組みを排除し弾圧したから。西欧の最新知識の反訳出版にも制約があった。・・

 漢字で書かれた日本語はインパクトがあった。多くの留学生の共通体験である。・・幕末維新の時期に日本人が編み出した語彙(和製漢語)が中国に伝わり現代中国語に取り込まれた。・・実は、これは大事件なのである。・・その事実と影響は、世界史を決定づけた。もっと注目されてしかるべきだ。

 かつて日本は、ガン化したナショナリズムに理性を失い、勝てるはずのないアメリカとの戦争に突き進んだ。そして敗北した。アメリカはガン化のメカニズムを詳細に分析する代わりに、外科手術によって病巣を切除した。中国の人びとははるかに現実的なのでいくらナショナリズムがガン化しても勝ち目のない戦争を始めたりしない。勝てるときまでじっと時期を見る。いま世界に必要なのは、中国のナショナリズムの内部メカニズムを詳細に分析し理解することだろう。情報機関は何をおいてもその作業を進めるべきだ。アメリカの情報機関は問題意識はあってもその能力が足りない。漢語の素養が欠けている。日本の情報機関は漢字は読めても情報を取り出す姿勢が欠けている。中国自身は自分の無意識に立ち向かうことができない。要するに世界のどの国も中国のナショナリズムの本質を取り出すことに成功しない。

 西洋では法律は、正義を権力や政治と「無関連化」するための仕組みである・・西欧の法廷では、政府(権力の当事者)を裁くこともできる。中国では伝統的に法律は政府(権力者)が下す命令だった。法律は権力や政治と「無関連化」していない。・・中国の人びとに国際社会はこうみえる。覇権国を中心とする国際秩序は権力のかけひきの場である。条約や協定は強国の意思を弱国に押し付ける仕組みである。国際社会で「ルールだから正しい」ことはない。むしろルールは不正義である。かつて弱国で強国のつくったルールに服していた国は強国となったらそのルールに従うのをやめ、ルールを新しくつくり変える権利があるのあだ。

 ここから、著者が米中をどう見ていて、日本がどうすべきなのかは、十分に読み取ることが出来る。この視点は、新鮮で説得力を持っているように思う。