中国共産党帝国とウイグル 橋爪大三郎 中田考

2021年9月22日 第1刷発行

 

中国共産党は「共産党」と名乗っているが、共産主義ではない。土地は原則国有ではあるけれども、使用権の私的所有を期限70年として認めているから、私的所有を認めているのとほぼ同じ。資本についても株式会社が登場しており私的所有を認めている。私的所有権を承認している以上、共産主義ではない。

中国共産党は、憲法より上位に位置する正しい任意団体として存在しているが、共産党の利害と社会全体の利害に矛盾が生じた場合、革命が起きてしまう。それを抑えつけるための抑制装置としてイデオロギー操作や宣伝が必要であり、言論の自由を押えるためにプロパガンダ装置や秘密警察が動員され、治安立法が講じられる。

結局、中国共産党は「中華民族」というウルトラ・ナショナリズム政党として存在しており、習近平はそれを「中国の特色ある社会主義」と言い換えているに過ぎない。漢民族以外の内モンゴルチベットウイグルの人びとは葛藤し、悩む。それに対し習近平中華民族を実在させようという運動を起こし、彼らの伝統を壊し母国語を奪って再教育し中華民族一色に染め上げようとしている。これが一帯一路であり中国の夢である。その視点で今回のウイグル問題を捉えるべきであると指摘する。

 

そのような前提を置いた上で、二人の著者は、トルコ、アメリカ、EU,日本は、中国とどう向き合うべきかについて言及する。また香港やチベットウイグルとは異なり、台湾についての対応の基本的な考え方についても言及する。日本で言えば、日中平和友好条約を含め、台湾を独立国と認めないというひとつの中国条項が盛り込まれている時に、その前提となった了解事項に違反していれば、台湾を独立国として認めるという選択肢が生き返ってくるので、独立国であれば内政干渉ではなく守ることができるという論理が成り立つ。したがって台湾を守ることで解決の糸口をつかむことを提案している。さらに他国が(日本も含めて)中国研究をきちんと行っていくことで、それが結果的に中国のためにもなるという視点を提示している。

なお、中田氏は、イスラーム学者として、イスラームの視点でウイグル問題を取り上げ、かつ最近のタリバン政権復活によるアメリカの凋落とともに、中国が他国に先駆けてタリバン政権を公式に招聘したこと=一帯一路構想実現のためのパートナーに選んだことを意味すると指摘し、それは日米欧豪印4か国戦略対話(クアッド)を挫折させるものと分析している。

世界から、特に中国から目が離せない。そんなことを強烈に教えてくれる一冊です。