おとなは子どもにテロをどう伝えればよいのか タ―ハル・ベン・ジェル―ン 西山教行訳

2022年12月10日第1刷発行

 

テロリズムって何?どうして繰り返し起きてしまうの?テロリストってどんな? ゴンクール賞作家が娘と対話しながら、テロが発生する複雑な背景、恐怖との向き合いかた、政教分離について共に考えてみた。」「子どもたちに真実を語らねばなりません。子どもたちには、自分たちを戸惑わせて恐怖に直面させるものが何であるか、理解できる能力があるのです。この能力を馬鹿にしてはなりません。それは、子どもたちがおとなよりも強いからではなく、またそれに耐えられるためでもありません。子どもの感受性はそのひょうな自体や恐れに対する心構えができているのです。(本書より)」

 

「序文」では、2015年に起こったフランスの諷刺新聞『シャルリー・エブド』編集部が襲撃され12名が殺害されるという痛ましい事件が起きたことを取り上げて著者が娘と対話する形式で始まる。

「ある日のこと」では、世界各国で起き続けるテロ事件が、ジハード主義者、アナーキストによるものであることを具体的な年月を追いながら説明している。しかし、テロリストとレジスタンスの違いの説明になると難解。テロリズムは価値を認めず、レジスタンスは価値を主張するという違いを娘に説明するが果たしてこれで分かるのだろうか?レジスタンスも敵から見ればテロリスト扱いされる。また現在のフランスは公式には戦争をしていないし戦争状態にないと言いながら、アフリカで軍事介入をしているという。パレスチナイスラエルの対立、ISについても詳しく説明している。平時のジハードは誰もが自己を改善して善良なムスリムになるため自分で行うべき努力のこと、戦時のジハードはイスラーム教を攻撃する人に対する戦いを意味する。反ユダヤ主義とジハード主義が再び実現しようとする反ユダヤ人主義は分けなければいけないともいう。スンナ派には位階制がないため指導者層がいないからテロに声をあげない。シーア派のウマラ―はファトアー(勧告)を出したが教皇の権威に匹敵するものではない。トルコ以外でムスリム圏に属する国で政教分離をしている国はいない。チュニジアは良心の自由や男女平等を憲法で認めたムスリム唯一の国のためISのテロの標的になっている。2015年1月15日知識人グループがメッセージを公開し改革の機運はゼロではない。ムスリムにとってイスラームとは生活すべてに関わるためライシテの原理を進んで受け入れることはない。

難しい問題を扱っているが、これを子どもに理解させ、テロリストになってはいけないというメッセージをきちんと受け止められるように教えていくことの重要性があることは確かだ。この章の末尾では「イスラーム恐怖症に対して効果的な戦いを行うためには、西洋とイスラームのいずれの側の無知に対しても立ち向かう必要がある」と結んでいるのはその意味で分かり易い。

「翌日には」では、クルアーンをとり上げて隠喩として読む合理的な読み方をする派と伝統主義派があること、後者は宗教原理主義に帰着し、それを推進したワッバーブサウジアラビア人であったことからサウジアラビアカタールで存続していることを繰り返し説明。

最後の「二日後に」では、テロリズムに対し効果的に戦うためにすべきことをまとめ、「最後に」では知識と懐疑の道を歩み続けよと諭して終わる。

子どもにどうテロを伝えればよいかというタイトルから比較的分かり易く書かれているのでは?と期待していたが。目次がなく、またテロに対して予備知識があまりない日本人にとっては結構難しい本だと思った。が、少しでも紛争の実態を知って(そのための教育が重要だと筆者は述べているようだ)、知らないことを減らし、恐怖におびえるのではなく、子どもたちにも正確な理解ができるようにしていくこと、そのことが重要だというメッセージは確かにその通りだと思う。