デトロイト美術館の軌跡 原田マハ

令和2年1月1日発行 令和4年11月10日11刷

 

帯封「女優 鈴木京香さん推薦! 映画になるようなワクワクするストーリーはやはり、マハさんにしか書けない。『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』の著者が実話を基に描く、感動のアート小説。」

裏表紙「ピカソゴッホマティスにモネ、そしてセザンヌ。市美術館の珠玉のコレクションに、売却の危機が訪れた。市の財政破綻のためだった。守るべきは市民の生活か、それとも市民の誇りか。全米で論争が過熱する中、一人の老人の情熱と一歩が大きなうねりを生み、世界の色を変えてゆく―。大切な友人や恋人、家族を想うように、アートを愛するすべての人へ贈る、実話を基に描かれた感動の物語」

 

第1章 フレッド・ウィル《妻の思い出》     2013年

第2章 ロバート・タナヒル《マダム・セザンヌ》 1969年

第3章 ジェフリー・マクノイド《予期せぬ訪問者》2013年

第4章 デトロイト美術館《奇跡》     2013~2015年

対談 アートは友だち、そして家族 鈴木京香×原田マハ

 

存亡の機に瀕したデトロイト美術館の実話に基にした小説。

ミシガン州デトロイトは、お隣がカナダのトロントで、セントクレア湖やエリー湖がある。

自動車産業が有名な土地だからか、主人公の1人フレッドも自動車会社の工場に勤務していたが、退職を余儀なくされる。2013年7月にデトロイト財政破綻、負債総額は180億ドル、全米で過去最大。このため、美術品の売却が検討されることに。その時、デトロイト市民が立ち上がり、窮地を脱する、というお話。

本書の表紙には『マダム・セザンヌ』、ポール・セザンヌが妻オルタンスの肖像を描いた作品が掲載されている。当時のセザンヌは売れていないため父親の仕送りを引き続き得るために妻と子どもの存在を隠していた。フレッドは妻から誘われてデトロイト美術館に通うようになる。彼らは美術館に行くことを「友だちに会いに行く」と表現する。その中でもマダム・セザンヌに最も魅了される。なるほど、アートの一つ一つが“友だち”という感覚になっていたのか、と思う。そんなアートを愛する人々の思いが詰まった美術館を何とか維持したいという市民と、その市民の心を正面から受け止めて、美術館を存続させてなおかつ退職職員の年金もきちんと支払われるようにするために別の方法をひねり出した裁判官の知恵も見事なら、それに応じた人たちがアメリカには実際にいたというのがなかなかカッコいい。日本だったら果たしてどうだっただろうかな?と思ってしまった。

末尾の鈴木京香さんと著者との対談はちょっとしたおまけ。ただ自らも美術品を収集し、美術館に一人で足繁く通っていたとは知らなかった。やはり自分磨きをしているからこそ美しさも維持できているんですね。