オシムからの旅 木村元彦

2010年2月25日初版第1刷発行

 

帯封「オシムが、ストイコビッチが、人生を賭けて伝えようとした真実とは? そして、そこから私たちが学びうることとはなにか、ふたりにもっとも近い日本人ジャーナリストが情熱を込めて描く。今後、この本なくして、サッカーはもちろん、すべてのスポーツを語れない。『崩れ行く祖国で、サッカーで民族融和を図ろうとした私はドン・キホーテだったのかもしれません。でも紛争の後、人々はまた民族融和の大切さを知りえたのです。』-イビツァ・オシム(『この本を読むみなさんへ』より)」

 

目次

この本を読むみなさんへ イビツァ・オシム

Prologue 民族のたたかいに翻弄されたサッカー選手たち

第1章 サッカーと紛争のはざまで ドラガン・ストイコビッチ-情熱と波乱に満ちた人生の軌跡 世界を震撼させた伝説の男 滅びゆく祖国

第2章 サッカーが「民族」を超えるとき イビツァ・オシムー寛容さと多文化への静かなオマージュ 混迷のユーゴを旅する 包囲された故郷 僕らをつなぐオシムの言葉

第3章 オシムからの旅 この国は「平和」なのかー遠くの問題が照らしだす、僕らの足もと ユーゴから日本へ 僕らが「民族」と向き合うために

 

セルビア出身でピクシーのニックネームで知られるストイコビッチ選手。華麗なプレー、芸術的なドリブルで名だたるヨーロッパの選手をキリキリ舞いさせた伝説の選手の一人。グランパスの監督時代、スーツ姿の革靴姿でシュートを決める姿。セルビアバッシングが作られていく中でチームメイトが一人ずつ欠け代表チームが国際試合への出場停止の措置を受けても自暴自棄にならず誇りを失わず、スポーツ制裁が解除されると代表に復活。セルビアが崩壊する中でイライラを隠せない姿を見せた時もあったが、民族問題に翻弄されながら民族としてのアイデンティティを求めてサッカーを応援するユーゴの人々。バルカン半島の歴史は結構ややこしいと思っていたが、それを分かり易く歴史をたどりながら、サッカーと絡めて筆を進める著者はストイコビッチに直接取材して本書を編んだ。今改めてネットでストイコビッチ選手のプレーを見ると抜群の技術で華麗にボールを裁きゴールを演出する、間違いなくサッカーの天才の一人だと思う。

ボスニア出身のオシム。ユーゴではそれぞれの国の選手こそナンバーワンだとファンは主張するが、監督では皆一致してオシムがナンバーワンだという。ユーゴの代表監督を務め、ギリシアのサッカーチームでの監督の後、2006年に日本代表チームの監督に就任。12勝3敗5引き分けの成績を残しながら07年11月脳梗塞で倒れる。どんなにか悲惨な経験をしたことで物事に動じない精神が身についたのでは?との記者からの質問に対し、オシムは“たしかにそういうところから影響を受けたかもしれないが、言葉にするときは、影響を受けていないといったほうがいいだろう。そういうものから学べたとするなら、それが必要なものになってしまう。そういう戦争が…」戦争から学んだとは言いたくないというオシム語録は人々に感動を呼んだ。

著者は最後に鶴見警察署長だった大川常吉さん、卓球の世界で民族や国境の壁を破った荻村伊智郎さん、柔道家山口香さんを通じて民族問題を改めて読者に考えるきっかけを与えている。