五瓣の椿《下》 山本周五郎

1992年9月10日発行

 

第4話

 4話から、銀の平打の釵による連続殺人事件に注目した、与力・青木千之助が登場する。

 かつておりうを目撃したという女中の直訴をきっかけに、おりうのいる部屋に青木は乗り込む。お倫と名乗る女性が人間違いだといい、そこに許嫁が現れて一旦は難を逃れるが、青木には注意を払う。許嫁は、札差の道楽息子、香屋清一で、今度のターゲットだ。青木はお倫の家に手下を向かわせたが引越していた。清一の跡をつけさせようと思うと、呼出を受けて出て行ったばかりだった。あと一歩遅かった。お倫のいう伊勢屋の娘と親しかったのがむさし屋の娘で親子3人で焼け死んだという。再び死体が上がった。左乳の下に平打の銀の釵が突き刺さっていた。椿の赤い花片が一番置かれていた。青木宛の手紙があった。あと2人手数をかけるが、それが済んだら自首するという。御定法では罰することの出来ない罪があると一言だけ説明されていた。

 

第5話

 およねは、丸梅源次郎と酒を酌み交わしていた。源次郎は17歳の女中おつるに手を付け、1人ばかりか2人も子を産ませた。2人目は誰の子だかわかりゃしないと言って絶縁した。源次郎はおしのの実父だった。母も母なら父も父。2人の血が自分の体に流れていると考えると身もだえした。青木はむさし屋の火事で焼け死んだ死体を調べているという。時間がない。佐吉は、おそのの不義の相手を見つけ出し、今はおしのの復讐の手伝いをしていた。船で、佐吉から、死体のうち、おしのの骨は女のものでなく若い男のものであることを青木が突き止めたと聞かされ、おしのに惚れていたと告白されたおしのの次のターゲットは佐吉だった。船からおしのは一人で上がった。

 

第6話

 おしのの骨は菊太郎の骨だった。それを源次郎の前でつげるおしの。源次郎は今日こそはおよねと結ばれると思いきや、およねから聞かされた話は、おそのに関係のある男が次々と殺されていった話だった。山椿は父親が好きな花だった。何の道楽もない人のたった一つだけ好きな花だった。その花片は父親への供養のしるしとして置かれたものだった。およねは椿の花片と釵を取り出して源次郎の前に差し出し、さあ、あなたの娘おしのをどうぞ抱いて下さいと詰め寄る。おしのは源次郎に、殺すつもりだったが、生かしておいてあげる、自首して、生きている限り苦しむのよ、と言ってその場から立ち去った。おしのは青木に手紙を出した。すべてを綴り、青木に自分を召し捕りに来るよう求めていた。

 

終章

 むらたという料理茶屋に駆けつけた青木だったが、おしのは自ら自害し、事切れていた。青木宛の手紙があった。約束に背いて申し訳ない、お仕置きが恐ろしくなり自害する、召使のおまさにやった金は父が遺してくれた金の残りでうろんなものではない、彼女は何も知らない、死骸を処分する前にむすめのままだということを腑分してほしいとあった。青木はおしののしたことが正当であったかなかったかは分からないが、そうせずにいられなかったとすれば、それをしたことについて悔やむ必要はない、源次郎には罪の味を思い知らせてやるよ、父親の側でゆっくり休むがいいと呟いた。