虞美人草 夏目漱石(その2)

昭和26年10月25日発行 昭和43年9月10日37刷 昭和54年4月30日56刷

 

井上宅を訪れた浅井は想像力に乏しい男で、清三から頼まれた通り、井上の父に清三は博士になる勉強をするため、娘さんと結婚はできないが、経済的な補助はしたいと言っていると告げる。それを聞いた井上の父は怒り出し、人の娘は、玩具じゃない、人一人殺しても博士になる気かと聞いてくれといい、小夜子は泣き崩れる。そして井上の父は清三に家に来て自分で断りに来いという。驚いた浅井は宗近宅に行って事情を話すと、宗近一は小野宅に向かい、藤尾に会う約束をした清三が家を出発する直前に出会い、清三に真面目がなければ土で出来た人形と一緒だ、この機会に真面目になりなさい、この機を外すと、もう駄目だと言う。清三は正気に戻ったように小夜子を捨てては済まない、狐堂先生に済まない、小夜子と結婚すると返事をした。そして宗近一は清三に対し、藤尾の目の前で小夜子が未来の細君だと明言せよという。嫌がる清三に対し、口だけが真面目になっても行動が伴わなければ人間が真面目になったんじゃないと言い、小夜子を呼びにやった。宗近の父は一に言われて井上宅を訪れ、今息子が清三に話をしていると井上の父と娘に話をしていた。一方、甲野宅では、欽吾が母の前で父の額を外してこれから家を出るところだった。そこへ丁度糸子が甲野宅に到着し、兄の宗近一に言われて欽吾を迎えに来たという。すると欽吾の義母が世間体が悪いから出て行くなと言い出し、糸子が出ていきたい者をとめる理由がないと言い争いになる。そこに宗近一、清三、小夜子の3人が到着した。藤尾は清三と会うために外出していたが、間もなく戻ってくるはずだった。そして、清三に約束をすっぽかされた藤尾がクレオパトラの怒を乗せて韋駄天の如く帰ってきた。藤尾は清三の姿を確かめると、なぜ来なかったのかと詰め寄ると、宗近一は清三の代わりに、藤尾に対して、小夜子を清三の妻だと紹介すると、藤尾は侮辱する気かと紫色の血管を浮き立せて怒りを満面に注いだ。宗近は好意だ、誤解しちゃ困ると言い、清三も小夜子が未来の妻に違いないと言い、藤尾に謝罪すると、藤尾は金時計を宗近一に渡すが、宗近一は金時計を大理石の角でぶつけて砕いた。宗近一は時計が欲しくてこんな酔興な邪魔をしたんじゃない、これを壊せば自分の精神は君らにもわかるだろうというと、藤尾は全身が硬直して床の上に倒れた。藤尾は北を枕に寝ている。死んでしまったのだ。欽吾は義母に、京都に欽吾を遊びにやったのは清三と藤尾を深くするための策略だったのでしょうが、そういう策略がいけない、ところが人には欽吾の病気を治すためだと嘘を付く、そういうところを考え直してくれれば別に家を出る必要はないというと、義母は謝った。欽吾は悲劇と喜劇に関する長い日記を書き、その一節を抄録して倫敦の宗近一に送った。宗近一は「此処では喜劇ばかり流行る」と返事した。

 

長かった。職をなげうって新聞社に行くことを決心して長篇小説を書き始めた漱石が、漱石らしからぬ力が肩に相当入っていたような作品だと思う。語句の装飾が半端でない。こちらの肩も疲れてしまった。