玉人 歳月 宮城谷昌光

1999年6月14日第1刷発行

 

玉人

崔信は友人の李章武に機嫌のよい声をかけた。李章武は崔信の家で玉で出来た白圭の燭台を見ていた。千年以上前の戦国期のものだった。李章武は中王、河北の国のものではないかと言った。李章武は容貌閑美と噂されていた。李章武は燭台の中に女の影があるような気がした。崔信は華州の別賀(州長官である刺史の補佐官)に任じられた。李章武が華州を散策するため連日外出した。6日目に市の北へ行くと、なつかしさが湧く女の影を見て、誘われるように女をつけた。女が消えた門を叩き、宿泊することにした李章武は女を自分の妻にしようと思い、崔信邸に帰って僕夫の楊果を連れて戻った。楊果が調べてみると、夫が病身で身分が低い者の妻だった。子婦の肌膚のなめらかさとやわらかさは中山王の玉の燭台を触った時と同じだった。李章武は女を玉人と呼んだ。李章武は仕事のため長安に向かった。離れていても妻は妻だと思っていたが、2年経っても子婦は長安に現れず、更に年月を重ねて楊果が亡くなった。9年目に李章武は長安を出ると、子婦は4年前に死んでいた。家の中に紺碧の色で堅密な物を見つけた。子婦が天界からもたらした物だと思って持ち帰った。この宝玉を見た僧は後日これは天上の至物、この世のものではないと言った。この宝玉は後世に伝わった。

 

歳月

小娥の父謝氏は、估客、すなわち商人だった。舟を使って行商をしていた。盗賊が出没しているという話を聞き、謝氏は武装した者をも舟に乗せねばならないと思い、

腕がたつ上に男ぶりがよく、剛毅で義を重んずる侠士の段居貞を2人の娘のうち姉の婿にしようと思っていた。段居貞と謝氏の長女との婚約が整ったが、長女がほどなく亡くなった。縁が遠のいたことを残念がった謝氏だったが、段居貞は11歳の小娥を妻にしたいと言った。段居貞を夫に迎えたある夜、賊に襲われ、小娥は斬られた。小娥はギリギリのところで息を吹き返したが、昏睡は続いた。夫も父も家も財産もなく、全くの孤児となった。小娥は亡くなった父から、車中猴、門東草が父を殺したと聞いた。父の魂は昇天していない。今度は亡くなった段居貞が現れ、夫を殺したのは禾中走、一日夫だと聞かされた。小娥は父と夫の菩提を弔ってもらうために妙果寺の門をくぐり、浄悟という尼僧に面会した。小娥が二十歳になった年、李公佐が、父を殺したのは申蘭、夫を殺したのは申春だと告げた。小娥は仇を討つために旅に出た。求人の貼り紙をした人物を訪ねると、その人物が申蘭だった。申春は申蘭の弟だった。2人が大宴会を催した時、小娥は申蘭の首を切り落とし、申春は逮捕されて死罪となった。小娥は有名人となったが、再婚はしないと明言した。小娥の仇討ちを知らなかった李公佐は小娥と再会した。李公佐は「何という人生か」と叫んだ。その叫びの届かぬ小舟に小娥は乗り、空水に融けようとする一点になった。