私の履歴書 村松梢風(作家) 日本経済新聞社 文化人1

昭和58年10月5日1版1刷 昭和60年3月20日1版3刷

 

①富貴の乱れた農村に育つ

②恋の芽生えはお煙草盆の子

③姉妹を同時に恋する

④中学生のころ

⑤処女作

⑥ようやく文学を志す

⑦役に立った吉原通い

⑧志した“千三つ屋

⑨葬式記者

⑩「浅妻双紙」文壇へ

 

・地方の純農村はおしなべて風紀が乱れていたこともあり、農村生まれの私も幼いことから下婢に負ぶわれて喜んだ記憶がある。小学校へ上がらない時分、近所の女の子と遊ぶのが楽しかった。家にいた女の居候と寝ることが大層好きだった。股の間へ足を挟んでもらって寝る快感には明らかに異性があった。尋常小学校1年生のふみという女の子が好きだった。放課時間によく遊んだ。高等小学校ではお医者さんの姉妹の娘を同時に恋した。雨が降ったある日、妹が傘に入れてくれたのには嬉しかった。こんな嬉しいことは一生涯のうちに滅多にない。中学3年の時に異性を知った。居候をしていた年上の娘だった。中3の時、水車で父の妾と遭った。中4の時、友達と2人で借りて下宿していた裏の借家に軍人の細君が留守番をしていて訳もなく関係ができたが怖くてそれどころでなかった。22歳で結婚し翌年長男が誕生したが、農村生活に耐えきれなくなり東京に飛び出し文学を志した。芝の神明で知り合いになった女とはかなり長く続いた。吉原は素晴らしかった。飯炊き婆さんとまで懇意になり吉原の表裏を知り尽くした。稲葉は昔の高尾に劣らない。身の上話を少しずつ聞き、小説風に書き始めて2週間通って百枚書き上げた。中央公論の巻頭に載せられ評判になった。私の女の履歴書である。(昭和36年2月13日死去)