街場の日韓論 内田樹編

2020年4月25日初版

 

帯封「荒れるネット言説、政治のねじれ、歴史修正主義… 日韓をめぐるさまざまな事象は、『問題』ではなく『答え』である。11人の寄稿者が考える、日韓相互理解への道すじ。아이고(アイゴー)困っています。もつれた結び目を解くためにみなさんの知恵を貸してください。」「いまの日韓関係については、誰か賢い人に『正解を示してください』とお願いするよりも、忍耐づよく終わりなく対話を続けることのできる環境を整えることの方がむしろ優先するのではないでしょうか。クリアーカットであることを断念しても、立場を異にする人たちにも『取り付く島』を提供できるような言葉をこそ選択的に語るべきではないのか。僕はそんなふうに考えています。(まえがきより)」

 

目次

まえがき

二人の朴先生のこと          内田樹

私が大学で教えている事柄の断片    平田オリザ

歴史意識の衝突とその超克       白井聡

韓国は信頼できる友好国となりえるか? 渡邊隆

隣国を見る視点            中田考

炎上案件に手を出す者は、必ずや己の身を焦がすことになる 小田嶋隆

東アジア共同体をめぐる、ひとつの提言 鳩山友紀夫

韓国のことを知らない日本人とその理由 山崎雅弘

植民地支配の違法性を考える      松竹伸幸

卵はすでに温められている       伊地知紀子

見えない関係が見え始めたとき     平川克美

 

 

・ギルダム書院の主宰者朴聖焌先生は、私(内田)の研究者。朴東燮先生は私の書いた本を全部読んでいる。私の著作は26冊韓国語訳されているが、これは異常な数だと思う。私は自国内で調達できない種類の知見を提供できる例外的な日本人らしい。こんな需要が韓国にあるのはどうやら私がマルクシアンだからのようだ。北朝鮮を賛美はしないが、マルクスの知見に深い敬意を持つ人の居場所が韓国にはない。そういうものがなくてはすまされないということに韓国の人たちは気付きつつあると思う。

兵庫県立「国際観光芸術専門職大学」が認可されれば日本初の演劇やダンス実技が学べる公立大学となる。韓国には国公私立含めて映画・演劇学部のある大学が百近くある。文科観光体育部の独立した省庁の予算はGDP比で日本の約10倍と言われている。韓国の文化政策は国家を挙げてのイメージ戦略となっている。

日韓基本条約第2条にある「千九百十年八月二十二日以前に大日本帝国大韓帝国との間で締結されたすべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される。」を、日本側は「過去の条約や協定は、当時においては法的に正当で有効であったが、(現時点から)無効になると確認される」と解釈し、韓国側は「過去の条約や協定は、不法で不正なものだったのだから、(当時から)無効になると確認される」と解釈し、両者はお互いに相手の解釈について踏み込まないことが黙契された。つまり両国はそれぞれ自分たちの信じたい歴史を信じるということである。

・日本が「無限責任論」の合理性を理解し、それを実行することで、初めて韓国は謝る気持ちを持ち続けるというならば、私たちも日本を赦すべきではないかということを挙げることが出来る。東アジア経済共同体、東アジア文化共同体、キャンパスアジア構想、東アジア教育共同体、東アジア環境共同体などの創設に向けて取り組むべきではないか。これらの先にアジア共同体を実現していく。

韓国映画「ホワイト・バッチ」。見てみよう。原作も翻訳されているらしい。知らせる努力をしない、だけでなく、知らせない努力をする、という領域に入っていると感じている人がいる。鋭い感性だと思う。

・植民地支配の問題はもともと問題にされてこなかった。安倍政権だけでなく村山政権も植民地は合法であるとの見解を取り、違法であることを認めたことがない。今の徴用工問題の本質的な論点はこの論点を正面からあぶりだしているところにある。国連総会で1960年に採択した植民地独立不世宣言決議も合法説に立つ。法の不遡及という大問題が横たわっている。

 

これだけ多角的・多面的に日韓の問題を取り上げ、掘り下げようとした書物ははじめてだ。知的好奇心、刺激が大いにゆさぶられた。