狭き門 ジッド 山内義雄訳

昭和29年7月30日発行 昭和48年8月20日50刷

 

表紙裏「早く父を失ったジェロームは少年時代から夏を叔父のもとで過すが、そこで従姉のアリサを知り密かな愛を覚える。しかし、母親の不倫等の不幸な環境のために天上の愛を求めて生きるアリサは、ジェロームへの思慕を絶ち切れず彼を愛しながらも、地上的な愛を拒み人知れず死んでゆく。残れた日記には、彼を思う気持と“狭き門”を通って神へ進む戦いとの苦悩が記されていた…・」

 

巻末の石川淳の「跋」、訳者「あとがき」によると、ジッドは『狭き門』により一の峠に達した、古典的完璧への到達を見せている。この作品は、ジッドの半自叙伝的作品と考えることもできる。

 

Ⅰ ル・アーヴルに住んでいた少年ジェロームは、医師をしていた父の死をきっかけに、母がジェロームの勉強に都合がよいだろうと言って、母の友人ミス・フローラ・アシュバートンと共にパリへ移り住む。母とアシュバートンは、ル・アーヴルのそばのフォングーズマールにある、ビュコラン叔父の家に移った。ビュコランの家には、ジェロームの従弟にあたるアリサ、ジュリエット、ロベールが暮らしていた。ジェロームよりも二つ年上のアリサと一つ年下のジュリエットは、美しい姉妹。叔父の妻リュシルは、いたって器量よしだった。植民地生まれで両親を知らない孤児だったが、ル・アーヴルの牧師ヴォーティエが引き取り、16歳の頃に叔父と結婚した。父の死後2年、ジェロームは復活祭の休暇をル・アーヴルに住む母の姉プランティエの叔母の家で過ごし、すぐそばのビュコラン家を往復する生活を送る。ある日、ジェロームは叔父の家に行くと、リュシルは見知らぬ若い男と一緒にいたのを目撃した。アリサに会うと、彼女の顔には涙が溢れていた。ジェロームはアリサの悲嘆の原因がのみ込めていなかった。リュシルが家出をしたとの電報が届いた。ジェロームは再びル・アーヴルに戻り、教会では牧師が「力を尽して狭き門より入れ。滅にいたる門は大きく、その路は広く、之より入る者おおし。生命にいたる門は狭く、その路は細く、之を見出す者すくなし」というキリストの言葉を読んだ。アリサは数列前の席にいたが、終わると従姉に会おうともせず立ち去った。試練に立ち向かうには彼女から遠ざかることが彼女に相応しい自分になることだと考えたからだった。

Ⅱ ジェロームは同じ中学校の寄宿舎に入った牧師の息子アベルとだけ話が出来た。ジェロームはアリサに気付かせないように、神秘な気持ちでアリサにささげていた。翌年の夏、ジェロームはアリサに自分の恋心を伝えた。翌年、心臓が悪かったジェロームの母親は死んだ。ジェロームはジュリエットにアリサと婚約したいと話したのを傍で聞いていた。ジェロームはアリサに直接婚約を申し込むが、アリサはジェロームをとても好きだと言いつつ、今のままでも十分に幸福だと答えて婚約は受け入れなかった。

Ⅲ パリに戻ると、アリサから婚約を待ってほしいという手紙が届いた。ジェロームアベルに相談すると、アベルは無防備な時にアリサを訪ねるとよいと言い、2人は一緒にフォングーズマールへ向かった。ジェロームはアリサと再会すると、今でも十分に幸福だと思い、婚約の話を進展させなかった。アベルはジュリエットと恋に落ちた。そして先にジュリエットと結婚することでジェロームとアリサを応援できると告げた。

Ⅳ アリサとの話し合いにすっかりいい気持になり、日曜ごとに手紙を書いたジェロームだが、不安はあった。叔母に相談すると、叔母はアリサが妹より先に結婚しないと言ったのを聞き出した。ジェロームはジュリエットから温室に呼び出された。ジュリエットはジェロームに、アリサはジェロームがジュリエットと先に結婚させようとしているのを知っているかと尋ね、ジェロームは驚く。アベルからも同じ話を聞かされた。ジュリエットは失神してしまった。

Ⅴ ジェロームはこれ以上姉妹に会いに来るのをやめるよう手紙をアリサから受け取った。アベルも書き置きを残して旅立って行った。ジュリエットは葡萄商人のエドゥワール・テシエールという男から求婚されていた。ジェロームはアリサから度々手紙を受け取った。手紙の中で愛を綴りながらジェロームと会うのを恐れるアリサの心情が綴られていた。そしてジュリエットがエドゥワールと結婚し、子宝に恵まれたことが記されていた。そしてジェロームとの再会の機会が近づいてきたことを告げる短い手紙が届いた。

Ⅵ ジェロームは久しぶりにアリサと再会した。しかし気づまりな時間ばかりが過ぎた。別れた後、ジェロームは、アリサから愛しているからこそ会った時に絶望を感じたことを知り、同じくジェロームも手紙で愛しているが故に会った時の苦悶を心を綴って送る。二人はその年の暮れに再会した。しかし、2人はほとんど言葉を交わすことなく、別れの言葉さえ口にせず、別れた。

Ⅶ 4月になると、ジェロームは再びフォングーズマールを訪れた。初日にジェロームはジュリエットが嫌だと思ったら、すぐにフォングーズマールを出ていくためのしるしを決めようと提案し、アリサは夕食に十字架を首にかけていないのをそれとした。ジェロームは毎晩十字架が煌いているアリサを見て安心し希望が生まれ確信を抱いた。そして遂にジェロームは2人の結婚を持ち出した。とすると、アリスはこれ以上ない幸福を感じるが、幸福になるために生まれてきたのではないと言い、清らかさを望むと言った。ジェロームの幸福は翼を広げて空へ飛び去ろうとしていた。その日の夕方、アリサは十字架をつけずに夕食に姿をあらわし、ジェロームは約束を守って夜が明けるや出発した。翌々日、アリサから奇怪な手紙を受け取り、何度もアリサから手紙が届いた。彼女は手紙のやり取りをやめようと言い、その再びフォングーズマールに来るようにと誘った。ジェロームはアリサと再会した。が、別人と思われるほどのわびしげな変わり方に驚いた。そしてアリサはジェロームに、昔の影に恋している、私は年をとってしまったと言う。ジェロームアテネ学院へ推薦され承知して出発した。

Ⅷ 3年後、ル・アーヴルにいたジェロームは、叔父が10か月前に死に、アリサに手紙を書いても返事がなかったため、わざとらしくないようにフォングーズマールに出掛けた。アリサに会うためだった。ジェロームが来ると思って3日程いつもの場所で待っていたアリサだったが、その痩せ方と色艶の悪さにジェロームは恐ろしい程胸が締め付けられた。アリサは、自分がこの上もなくジェロームを愛していたことを覚えておいてほしいと言って、十字架をジェロームに渡し、娘が生まれたら私の名前を付けてほしいと頼む。ジェロームは、アリサにキスをし、荒々しく抱きしめた。アリサは、2人の恋を傷つけないでと言って、聖書の言葉を語りかけた。これからあの《勝りたるもの》がはじまると。それからすぐにジュリエットからの手紙で、アリサが死んだことを知る。十字架を受け取り、公証人からアリサの日記を受け取る。

アリサの日記 ジェロームへの愛と徳を追及し、聖書を読み続けるアリサの日記である。

彼女の死から十年以上経ち、ジュリエットはその前年に生まれた女の子の名付け親になってほしいとジェロームに頼み、アリサと名付けた。ジュリエットはいつまでもアリサに操を立てるつもりなのねと言い、「目をさまさなければ」と言って泣いた。そこにランプを持った女中がはいって来た。