憑神《下》 浅田次郎

2013年12月10日発行

 

貧乏神、疫病神の次は死神が登場する。彦四郎が喜仙堂に家伝の康継を鑑定してもらうと、贋物でああることが判明した。それでも正真正銘の御紋泰継として研ぐよう依頼した。小文呉が榎本釜次郎に再会し、彦四郎の過去を洗いざらい話をすると、榎本は彦四郎のために千両を拵えて白龍様の憑神祓の護摩を焚く費用を捻出した。彦四郎は死神に宿替えの願いをかけず、己の命を差し出す代わりに時間をくれとせがんだ。死神が彦四郎に宿替えを勧め、勝安房守、公方様はどうかと尋ねるが、彦四郎はこれを拒否する。勝安房守から新政府に迎えたいと要請された彦四郎だが、徳川家に仕えた別所家父祖代々の役目を全うするとしてこれを拒否する。御家人たちは次々と脱走した。死神は彦四郎の胸の中に入り、研ぎ上がった家伝の御紋泰継を手にし、慶喜の影武者として大黒頭巾歯朶具足を纏い、猩々緋の陣羽織を着て大金造りの陣太刀を佩き腹帯に三葉葵の御紋の入った軍配と采配を差し出陣した。「限りある命ゆえに輝かしいのだ。武士道はそれに尽きる。生きよ」と嫡男市太郎に向かい諭して消えていった。

 

巻末の磯田道史の解説に、詳しい御徒町の説明があった。この作品について、「小さな損得に一喜一憂し、神頼みなどしている限り、人は本当に幸せな心の境地に達することなど出来ない」ことを彦四郎を通じて訴えている。自分だけの小さな損得の発想を乗越えた人間には、貧乏神も死神もなすすべがないことが最後に明らかにされたと。