マンチュリアン・リポート 浅田次郎

2013年4月12日第1刷発行

 

裏表紙「昭和三年六月四日未明、張作霖を乗せた列車が爆破された。関東軍の暴挙に激怒した昭和天皇の密命を受けて、若き軍人が綴った『満洲報告書』で照らされる『真実』とは?該博な知識と丹念な取材に裏打ちされた浅田史観で、闇に葬られた昭和史最大のミステリーを追う。絶好調『蒼穹の昴』シリーズ第4部開幕。」

 

治安維持法改正に反対する意見書を撒いた陸軍中尉の志津邦陽は、禁固六月の判決を言い渡されて服役していた。ある夜、目隠しをされて行先を告げず連れ出され、着いた先は皇居だった。昭和天皇は意見書を目にし、志津ならば忌憚なき意見を述べられると考え、張作霖爆殺の真相を調べて報告するよう求めた。満州から志津が天皇宛に送った報告書が「マンチュリアン・リポート」(満州報告書)である。第一信は張作霖が北京から東北の故地奉天へと向かうまでの当時の大まかな状況をまとめたものになっている。第二信は吉永中佐から協力を頼まれた岡圭という大元帥府書記という肩書を持ちつつ張作霖の側近の口を借りて1年前の出来事を語らせ、張作霖紫禁城玉座に手がかかっていながら奉天へ引き上げようと、中南海の西門を出て北京駅に向かったところまでの状況をまとめている。第三信は張作霖が日本の軍事顧問団を引き連れて北京駅のプラットホームに乗り込むまでの状況を、第四信は奉天に向かう列車が北京から天津を経て奉天に向かう時間帯を克明に記録し、天津までは時速26キロで移動し、天津の26分間の停車中に乗客が入れ替わったことや予定よりも半日遅れで事件現場にさしかかったことを記していた。第五信は時速10キロで動いている列車の張作霖が座上した車両が事件現場の満鉄の橋脚の真下に入った瞬間に爆破させることが如何に困難であるかについて説明し、首謀者と目される河本大作大佐の兵科は歩兵であり、実行犯は一個分隊以上の工兵とそれを指揮する爆破専門家の将校もしくは熟練の下士官であると報告している。第六信は関東軍の謀略だと証言した奉天鉄道守備隊に所属する古賀駿一から聞き取った内容を報告している。なお本書は志津の信書とそれに引き続いて鋼鉄の独白が交互に記されている。鋼鉄の独白が何かはわかりにくいが、どうやら張作霖の乗車した列車を擬人法で独白させたもののようだ。話の相手は、列車を製造した英国人の棟梁で、棟梁は彼を公爵と呼び、棟梁はフォアマンと呼んでいる。公爵は西太后のためにイギリスで作られた超特注超豪華列車で、西太后を乗せて走った後は25年間倉庫で眠っていたが、ある日公爵は、張作霖を乗せて奉天へ走ったという内容になっている。終章は吉永中佐から証言が得られれば、天津で下車した張作霖の側近3人が事件に加担しているのかがはっきりすると述べながら、懐かしい春雲が登場する(但し結局何なのかが今一つ分からなかった)。