シェエラザード(下) 浅田次郎

2002年12月15日第1刷発行 2015年7月1日第31刷発行

 

裏表紙「弥勒丸引き揚げ話をめぐって船の調査を開始した、かつての恋人たち。謎の老人は五十余年の沈黙を破り、悲劇の真相を語り始めた。私たち日本人が戦後の平和と繁栄のうちに葬り去った真実が、次第に明るみに出る。美しく、物悲しい『シェエラザード』の調べとともに蘇る、戦後半世紀にわたる大叙事詩、最高潮へ。」

 

土屋和夫は日銀のシンガポール支店から特務機関に徴用され、救世軍活動に携わる看護婦の百合子と出会う。弥勒丸の乗員を決める役目を負った土屋和夫は途中で弥勒丸に積み込まれたインゴットを中国の取り付け騒ぎを防ぐために上海の駐豪儲備銀行に搬入するとの計画を実現するために一般人2300人を人柱として乗船させようとしているのを知った。そのために軍と官の家族が優先的に乗せられ一般人を少なくしようとしている参謀の考えを知って激怒すると、土屋和夫はその事実を百合子に伝える間もなく逮捕されてしまった。小笠原は弥勒丸の引き揚げ実行を決断した。ホテルの部屋で軽部と律子が再び関係を取り戻すと、宗英明から軽部に謝礼の電話がかかった。咄嗟に律子は宗英明のいるスイートルームに軽部と駆け込み、種明かしを聞くことが出来た。機雷防御をしている弥勒丸は四発の魚雷同時攻撃を受けない限り沈まぬ構造になっていたが、敵は全てのことを承知の上で沈めてしまった。ダメージ・コントロール・システムのことまで敵側に知れ渡っていた謎は残る。ともあれ弥勒丸の乗組員全員が船を敬愛し船乗りとしての誇りを持っていた姿が美しい。最後に宗英明とは中国人ではなく弥勒丸に乗船して死亡したはずのある男だった。土屋和夫が弥勒丸に百合子を乗船させて死なせてしまったことを悔いていると律子から聞かれた宗英明は土屋も同じ苦しみを味わってきたというが、律子は土屋は宗英明と違って人殺しではないといい、土屋はそれでも律子がこの計画に加わることは偶然ではなく全ては計画通りだったという。律子は軽部に、これからも愛し続けると言いながら、捨てると言って別れる。最後に唯一の生き残りのベーカリーの叫びのような歌で、この物語は終わる。