シェエラザード(上) 浅田次郎

2002年12月15日第1刷発行 2012年9月18日第27刷発行

 

裏表紙「昭和20年、嵐の台湾沖で、2300人の命と膨大な量の金塊を積んだまま沈んだ弥勒丸。その引き揚げ話を持ち込まれた者たちが、次々と不審な死を遂げていく―。いったいこの船の本当の正体は何なのか。それを追求するために喪われた恋人たちの、過去を辿る冒険が始まった。日本人の尊厳を問う感動巨編。」

 

第2次大戦中に沈没した「阿波丸」の悲劇を素材にした小説である。1945年4月1日夜半、台湾海峡で米国潜水艦クイン・フィシュ号の攻撃にあい2044人の命が奪われた。連合国の要請で捕虜や民間人への救援品の輸送に当たっていた阿波丸は国際法上でその安全が保障されていたにもかかわらず、である。本書は、元銀行の支店長で現在は金融会社軽部順一社長と日比野義政専務が、中華民国政府の宗英明という老人から、台湾沖で多くの人命と膨大な量の金塊を積んだまま沈んだ弥勒丸をサルベージする資金として百億円貸してほしいという依頼から始まる。日比野は自衛隊を除隊して広域組織「共道会」の金庫番と呼ばれる男であった。そのバックには共道会会長・山岸修造とその義兄弟全国船舶連合会のドン小笠原太郎がいた。老人は政界ルート、大手商社ルートにも同じ話を持ちかけていた。軽部は3年ほど前に裏稼業に転身していたが、老人の話の後、大手新聞社で学芸部キャップの元恋人久光律子に調査依頼をすると、律子は社を辞めて九洋物産相談役の篠田郁麿を訪ね独自に弥勒丸引揚の調査を開始した。ところが商社の財務部長や国会議員秘書が不審死を遂げていた。律子は唯一の生存者を捜し出し当時の話を聞き、出航直前に辞退を申し出た小笠原機関の一員だった土屋和夫夫妻が数寄屋橋交差点で教会の募金活動をしている最中に出会った。