乱反射《下》 貫井徳郎

2017年6月10日発行

 

救急車で健太が運ばれる最中、加山は倒れた街路樹の現場で取材すると、被害者が我が子だと分かり、妻に電話する。受け入れ病院が見つからず、未だ救急車の中だと聞いて、絶望を食い破ってどうしてどんな状況で健太が怪我をしたのか知ることの強烈な義務感を覚える。石橋造園の社長は足達道洋から事情を聞いて一緒に警察に出頭する。足達は警察の調べの中で子供が亡くなったと聞く。久米川は病院に運ばれなかった子供が自分の病院に運ばれず安堵し、自分が看なかったことを自己正当化する。加山は健太の死を受け入れられなかった。しかしデスクの人災だとの一言で泣いてばかりいられないと怒りがわき、生きる意味を知った。加山は警察に街路樹が倒れた事情を聞きに行く。行われるべき検査が行われておらず業務上過失致死の疑いで捜査中と聞く。道路管理課で委託業者の名前を聞こうとすると、街路樹メンテナンス協会に一括委託しているのでそこで聞いてくれと言われる。協会から石橋造園土木の社名を聞き出し、会社を訪ねると社長が土下座して謝罪した。加山の剣幕に押されて、社長は当事者の足達に説明させると約束する。足達は自らが潔癖症で街路樹検査を実施できなかった理由を加山に説明した。伐採予定の樹木だとも聞いた加山は足達の話を聞かなければよかったと後悔する。足達は誰か他の者に代わって診断してもらえばよかったと指摘され、会社に病気の話をしておらず、そうできなかった自分を悔やんだ。足達は妻から何もできなかった自分を悔い実家に帰ろうとしていると聞いて益々悔いた。加山は生活安全課を訪ね、小林麟太郎にフンが落ちているとの苦情を受けたのが誰なのかを聞いた。麟太郎は自分が受け付けたと言わざるを得ず、片付けに行ったが、子供達に邪魔されて片付けができなかったと説明した。加山は麟太郎がフンを片付けなかったために街路樹診断が行われなかったことを教えたが、麟太郎はフンを片付けなかったことを咎めらても謝罪しなかった。加山は最初に受け入れを拒否した病院に理由を尋ね、抗議した。医局長は久米川に受け入れなかった理由を確認した。加山は帰宅する久米川に取材の体で話を聞こうとするが、久米川は夜間に風邪で診察を求めに来た安西寛の名を出して夜間診療が増えたことまで説明した。加山は安西寛にも話を聞きにいった。が安西は非を認めるとどうなるか分からない恐怖が先立つと同時に、自分が夜間に診察を受けた最初の1人だからと言って、夜間診察が受けられると言いふらした訳でもなく事故当日に診察に罹っていたわけでもなく、無関係だと思う。唯一可奈にだけ言ったことがあり、可奈が言いふらしたか問い詰める態度を取った。すると可奈の隣にいた女友達が自分が言いふらしたことを認めた。加山は徒労感を覚えていた。自己の遠因を作った人たちは皆自分は悪くないと繰り返すばかりだった。加山は更に、道路拡張に伴う樹木伐採反対運動をしていた人たちがいたために樹木検査をする業者が追い返されたことを聞き、運動の中心だった粕谷静江に加山は話を聞きに行った。静江は田丸ハナの名前を出して責任転嫁を図った。ハナは静江の言うとおり検査業を追い返したことなど知らない、伐採を反対しただけだと言い張った。警察は足達だけを逮捕した。市の責任は問えないが、こういう時こそ新聞の出番だとも言った。加山は現場をっ取材した。運よくフンを片付けない老人を知っている女の子に出会い、トイプードルを連れた老人を妻光恵と一緒に探すことにした。加山夫妻はフンを片付けずに立ち去ろうとした三隅幸造を見つけた。幸造は腰が痛くてフンを片付けられなかったことを説明し、帰宅後妻に話をした。妻は予期に反して晩節を汚したと言い幸造は衝撃を受けた。事故の背景を記事化することが難しくなった加山はホームページを立ち上げ、名前を伏せて事故の背景をありのままに書いた。いくつかのメールは加山が身勝手だと指摘しており戸惑いを感じた。更に当日渋滞に巻き込まれたという新情報を寄せたメールがあった。加山は榎田克子に取材を申し込んだ。克子も健太が死んでしまったことについて謝ることができなかった。が運転免許証を破り捨てた。会社にホームページの存在を知られた加山は閉鎖しなければ会社にいられないと上司に告げられた。加山はかつてサービスエリアのごみ箱に家庭ごみを捨てたことを思いだし、俺が健太を殺したと絶叫し続けた。