「小知恵にとらわれた現代の法律学」『嘘の効用』末広巖太郎

学者はわずかな小知恵をもとにしてひたすら異説をたてることのみを志し、これで結構オリジナリティーを出したような顔をしている。しかしいったい学者の本分ははたしてそんなものでしょうか。否、私はそうは思わない。学者の役目は、裁判所や立法府と協力して、一方においては現在の法律はかくかくのものであるということを一般国民に示して、そのよるところを知らしめるにある。であるから、できるならば、いわゆる学説の数を減らすことをひたすら心がけてこそ立派な学者である。そうしてまた他方においては、大きな眼からみて将来法律の進みゆくべき道を示すことに努力してこそ、真に学者の本文が発揮されるわけである。

法治国家における裁判官といえども昔の大岡越前守と同じように人間として立派な人でなければいけない。人間として最も完全に近づくように心がけなければいけない。ただその前の裁判官と違うところは、自分の全人格から自然に流れ出てきた裁判に、現行法を基礎とする理由を附し、裁判を受け入れる人および世の中一般の人をして自分は決して裁判官の任意な処分で裁判されたのではない、という感じをいだかせなければならないのです。そこが昔と今の違うところで、今日の裁判官のむずかしいところなのです。

なるほど。至極最もです。リアリズム法学の立場を明確に打ち出されていると思います。