2017年6月5日初版第1刷発行 2017年7月24日第4刷発行
帯封「「生命とは何か」地球最大の謎を解く 12万部突破のベストセラーに 新章追加!待望の新書化で大幅加筆! 緊急重版!」「生命は変わらないために変わり続けている。 ・歳をとると一年が早く過ぎるのは、「体内時計の遅れ」のため ・見ている「事実」は脳によって「加工済み」 ・記憶があるのは「細胞と細胞の間」 ・人間は考える「管」である ・ガン細胞とES細胞には共通の「問題点」がある 最新の研究成果による新章を追加!」
表紙裏「人間は考える『管』である」「私たちが見ている『事実』は脳によって『加工済み』」「歳をとると、一年が早く過ぎるのは、実際の時間の経過に、自分の生命の回転速度がついていけないから」などの身近なテーマから「生命とは何か」という本質的な命題を論じていく。発表当時、各界から絶賛されベストセラーになった話題作に、最新の知見に基づいて大幅加筆。さらに、画期的な論考を新章として書き下ろし、「命の不思議」の新たな深みに読者を誘う。
目次
「青い薔薇」-はしがきにかえて
プロローグ 生命現象とは何か
第1章 脳にかけられた「バイアス」―人はなぜ「錯誤」するか
第2章 汝とは「汝の食べた物」である―「消化」とは情報の解体
第3章 ダイエットの科学―分子生物学が示す「太らない食べ方」
第4章 その食品を食べますか?―部分しか見ない者たちの危険
第5章 生命は時計仕掛けか?―ES細胞の不思議
第6章 ヒトと病原体の戦い―イタチごっこは終わらない
第7章 ミトコンドリア・ミステリー―母系だけで継承されるエネルギー産出の源
第8章 生命は分子の「淀み」―シェーンハイマーは何を示唆したか
第9章 動的平衡を可視化する―「ベルクソンの弧」モデルの提起
単行本あとがき
新書化に寄せて
・記憶物質を追い求めたアンガー博士だったが、遂に記憶の物質的基盤を明らかにできる証拠を得られないまま1977年にこの世を去った。しかし既に30年前にルドルフ・シェーンハイマーにより生命現象が絶え間ない分子の交換の上に成り立っていること、つまり動的な分子の平衡状態の上に生物が存在しうることが明らかにされていた。今では生命活動とはアミノ酸というアルファベットによる不断のアナグラム=並び替えであると考えられている。
・STAP細胞は、ES細胞のように胚を壊すこともなく、iPS細胞のように遺伝子を導入する必要もない、ごく簡便で、より自然な方法で細胞をプログラミングすることができ、しかも胎盤にまで分化することができるというニュースが2014年に飛び出したが、これは幻と消えた。この事件の核心は藪の中のままである。
・北里柴三郎の血清療法はその後の免疫学の発展をもたらし、得られた抗毒素は病気に罹患した時の特効薬としても利用されるようになったのだから、ジフテリアに対する血清療法研究で第1回ノーベル生理学・医学賞は北里と共同受賞すべきだった。しかも北里は後にペスト菌を発見しておりこの業績だけでも十分ノーベル賞に値した。
・細菌でもウイルスでもない病原体をプルシナーはプリオンと名付け、プリオンタンパク質には正常型と異常型の2種類があり、異常型を伝達性スポンジ脳症の病原体であるとし、異常型が正常型を変形させることで核酸を持たない病原体が増殖するメカニズムであると説明し、これらの功績により1997年ノーベル生理学・医学賞を受賞したが、私を含めこの研究に疑問を持つ研究者は少なくない(『プリオン説はほんとうか?』講談社ブルーバックス参照)。
・「生命とは動的平衡にあるシステムである」。生命というシステムは構成分子そのものに依存しているのではなく、その流れがもたらす「効果」である。生命現象とは構造ではなく効果である。ベルグソンは『創造的進化』の中で「生命には物質の下る坂を登ろうとする努力がある」と言った。動的平衡とは、合成と分会、酸化と還元、切断と結合など相矛盾する逆反応が絶えず繰り返されることによって秩序が維持され更新されている状況を指す。