是枝 ただ時勢が悪いのだ。実際時勢がよくないのだ。・・そりゃ貴殿達(磋磨介・河内介)はもっと切ないには相違ない。それは重々分かっている。けれども、みんな辛いのだ。己もこのことではどんなに苦しんだかもしれない。どんなに争ったかしれない。併しどうしても力が及ばなかったのだ。
磋磨介 では、幕府に対する手前、われわれを匿うことは出来ないというのだな。
是枝 まあそう思ってくれ。
磋磨介 そうか、分かった。-では、寺田屋の一件に関係の者はみんな殺られるのだな。・・
是枝 (無言)
河内介 貴殿は倅の言葉を何と聞かれたのだ。あれをただの愚痴とのみ聞かれたのか。実は何度倅を止めようと思ったか知れませぬ。併し黙していました。それはあんなにも此世を執し、維新の義挙に燃えているものがあることを、しっかり心に刻みつけておいて貰いたかったからです。