民法と50年 我妻栄 「法の研究に一生を捧げて」

法律相談所雑誌12号所収(昭和37年)

民法改正後に、私法学会が全国的調査をしたことがある、相続のあった家庭を戸別訪問して、あなた方はどういうふうに財産を分けたかと聞く、すると、実は分けていないということがわかる。法律の規定が変わっただけで社会意識はすぐに変革されるものではない、ということが指摘されていた。
✳今回の相続法改正により、どのように変わったかについて、実態調査をしようという動きはあるのだろうか?

法律には社会を改造する力はない、法律は保守性を保つ、その理由は、法の特質とされる強行性と画一性のためだと常識的にはいうことができる。社会を変えようと考えるならば法律の研究に一生を捧げるべきではない。現実の社会として、法律がなければ秩序が維持できない、強行性と画一性をもっている法律を、やむをえないnecessaryだといってもいいが、社会の存在を前提としている以上はこれをすてるわけにはいかない、このことに思い至ったときに、一生を捧げても悔いなき価値はあるだろうと悟った。こうしたいわば縁の下の力持ちとしての、法律としての使命を守るということで甘んじてゆける人だけが、法律の研究に一生を捧げればよい。

それからもう一つ、法律は常識を援護していく、常識がそのまま通るとき、法律家はもっとも喜ぶべきです。常識が安全に通って法律が少しも前面に出てくる必要がない、法律家はこのときにこそ法律の存在意義を実現したと喜ぶべきです。

✳なかなか味わい深いなあと思いながら、読みました。