宗教改革者 教養講座「日蓮とルター」 佐藤優

2020年5月10日初版発行

 

・・ところで、ここまで読んできたこのルターの考え方は、先ほど読んだ日蓮の『立正安国論』と、考えている方向性が近いように思われませんか。両者とも徹底的に彼岸的で、いまの現実は悪がかなりはびこっている。そこから脱構築しないと行けないという主張。そのためには、正しいドクトリンが何よりも重要だ、という流れです(166p)。

 

ローマ帝国に挑んだ男ーパウロ』という映画があります。これは使徒言行録に即した、よくできた作品です。イエスの弟の存在や、ペテロとエルサレムの会議で大論戦ー割礼をめぐる論戦-をするパウロを、よく描いています。ユダヤ人の優位性を否定して、異邦人伝道、つまり世界に向けて宣教していき、最後は捕らわれの身になり、ローマに連れていかれるところで終わります。

 この、パウロという使徒の教えとの連続性を重視するのが、ルターの特徴です。もともと、キリスト教には、いろいろなグループがありました。そして、現在、生き残っているキリスト教はすべてパウロ派なのです。パウロ派以外のキリスト教は滅びてしまいました。・・(170~171p)

 キリスト教の「教祖」はイエスキリスト教の「開祖」はパウロ(172p)

 

 日蓮もルターも言葉をとても大切にした(173p)

 

 (『立正安国論』の)第十段には、そうした(「彼岸」を浄土と捉える阿弥陀信仰は日本のメインストリームであるが、そこには「此岸性」に対する軽視があり、それゆえに生まれる悪い意味での保守性があり、あるいは原則なきラジカリズムがあるという)問題の追究を避けつつ、バランスを取っていく中庸を説く政治観、倫理観が表れていると思います(255p)

  

 自分の食べ物を削って誰かを助けるというのは、キリスト教的、プロテスタント敵には美徳とはされません。どうしてかといえば、「あなた自身を愛するように」なので、身を削ってまでということにはならないからです(257p)

 

 時空を経て、お互いにはコミュニケーションを取らなかった日蓮とルターではありますが、危機の時代における危機認識はよく似ています。二人とも、人間の改造、変化が先決といいます。抽象的に変わるのではなく、人間の実態が変わることによって、社会が変わっていく。そして、社会が変わっていくことによって国家が変わっていくのだ、という考えです(263p)

 

 優れた宗教思想には常に両義性がある(273p)

 田中智學の一方に牧口常三郎がいた。ルターから最大の影響を受けた人物といえばヒトラー(275P)

 

 あとがき

 日蓮の時代にも能力はあるが腐敗した僧侶、ルターの時代にもだらしない私生活をする神学者はたくさんいた。宗教改革者はモラル(道徳性)とモラール(士気)の両面においても優れている。このように優れた宗教改革者の感化を受けた優れた弟子たちが生まれてきた。学校教育でも社会人教育でも、その基礎となるのは師弟関係だ。本書から、日蓮とルターが優れた教育者であったことを読み取っていただければ幸甚だ。

 

 背表紙に「現代は危機の時代だ。しかし、それは改革、革新、革命といった、人を動かす(時に人を殺しうる程の)思想が生まれる契機ともなる。日蓮とルター。東西の宗教改革の重要人物にして、誕生した当初から力を持ち、未だ受容されている思想書を著した者たち。なぜ彼らの思想は古典になり、影響を与え続けているのか?その力の源泉と、改革の先にある平和構築の鍵まで解き明かす。稀有な宗教講義!!

 

 背表紙に言いたいことがコンパクトにまとめられていると感じた。

 ただし、自分が原点を読みこなすには未だ力量不足を痛感する。