ノンフィクション名作選 向田邦子 灰谷健次郎 河合雅雄 梅棹エリオ 椎名誠ほか

1988年5月23日第1刷発行 1996年3月22日第10刷発行

 

10人ものノンフィクション作家の作品を散りばめた名作選。前半の5人分。

冒頭の松田哲さんの解説も参考に、読後感・気に入ったフレーズを抜き書きしてみる。

 

向田邦子

 「字のない葉書」(『眠る杯』より)、「ごはん」(『父の詫び状』より)、「襞(ひだ)」(『夜中の薔薇』より)

 いずれも戦時下の日常の一コマを、スッキリした文体で的確に言葉で表現したエッセイ。

 

灰谷健次郎

「二つの盗み」「骨くんの話」(『わたしの出会った子どもたち』より)

 チューインガム一つという詩によせて、著者の手紙にあった「ほんとうにきびしい人間は、いつだってじぶんをごまかしたりしません。安子ちゃんが、この詩をかいたことは、そのうそのない人間になろうとしたあかしだと、先生は思います」というところに著者の教育観、人間観が現れている。

 「人間の犯す罪の中でもっとも大きな罪は、人が人の優しさや楽天性を土足で踏みにじるということだろう」という冒頭の言葉も味わい深い。

 

河合雅雄「裏藪の生き物たち」

 動物学者の著者の少年時代の思い出を描いた作品。ムササビや椋鳥、狐の親子が出てくる。自然と関わりながら育つ子供時代の大切さと自然破壊への警告の書。

 

梅棹エリオ「熱気球のイカロス5号(抄)」

 日本初の熱気球飛行に成功するまでの経過と、続く2度3度の飛行の様子が記録されている。気球がどうして飛ぶのか、またどうやって着地しているのか全く知らなかった。初成功に昂奮する主人公の気持ちの高ぶりがストレートに表現されていて読者にワクワク感を与えるとともに気球というものの構造・部位を図解して解説してくれている。

 

椎名誠「二日間のプレゼント」(『岳物語』より)

 冒険旅行作家の著者がニューギニア旅行から帰り、次のシベリア旅行に旅立つまでの、わずか1週間の忙しい日程を割いて、2日間を息子の岳君との付き合いに充てたという楽しいような悲しいような作品。釣り好きの息子との伊豆一泊旅行だった。思うような釣果は得られなかったが、妙に2日目の昼食の舟盛(何と8000円!)が美味しそうだった。ところが午後からカサゴに狙いをつけると成功し11匹を釣り上げた。その直後シベリア旅行に出発する著者。マイナス50度の極寒地でわずか3時間しかない昼を味わう中で息子との2日間のプレゼントの格別な味わいを思い出す著者。少しもの悲しさもある。