ノンフィクション名作選 植村直己 黒柳徹子 小泉丈夫 日高敏隆 澤地久枝

1988年5月23日第1刷発行 1996年3月22日第10刷発行

 

植村直己「朝焼けのゴジュンバ・カン」

 著者が飛び入り参加の形で標高7646メートルの未踏峰ゴジュンバ・カンの頂上登攀に成功したことが新聞に大きく報じられるが、著者としては頂上に立ったというだけで自分がデカデカと紙面を埋めてしまい、隊を推進した主力メンバーのことが全く載っていなかったため、この新聞報道には大きな不満を抱き、日本に帰らず一人旅を続けた、という話として掲載されている。山登りの詳細描写は著者ならではのものだと思う。

 

黒柳徹子「窓ぎわのトットちゃん(抄)」

 夏目漱石の「こころ」よりも売れた歴代売上第1位の本。

 

小泉文夫「人はなぜ歌をうたうか(抄)」(『小泉文夫フィールドワーク』より)

 考えたこともない問いだった。

カエルや犬は一緒に鳴くことができない。エスキモーの中でもカリブーエスキモーも同様だが、クジラ・エスキモーは一緒に歌うことが出来る。このリズム感の善し悪しはどこからくるのか。クジラは1年に1、2度しかやっつける機会がなく、お互いに合図を送って一斉に攻撃する、タイミングを合わせることが出来たエスキモーだけが生き残った。首狩り族も歌が上手い、ハーモニーがよくそろう種族は首狩りが上手。逆に首狩りが下手な種族はどこかに乱れがあって甘くなる。

 このようなことから、音楽の発達の背景には、非常に切実な人間存在の根本に関わる種族保存の問題があったということが首狩り族を調べるとわかる、と著者は述べている。

 

日高敏隆「昆虫における時間」

 蝶や蝉の羽化を詳しく説明している。真っ暗な条件に置いてみても、本来の日没後の1時間後に起こるところから、小さな虫といえども、体内時計を持っていて、この時計が実に正確に動いていると著者は述べる。

 

澤地久枝「おとなになる旅(抄)」

 「忘れられない授業」元寇の際に元の船がなぜ壊れたか?神風が吹いたと答える生徒に不正解だと言い続け、鎖でつないであったからという答えに正解と教えてくれた溝口先生の勇気に触れている。

 「はみだしっ子」成績優秀だが思春期のことを隠さずに語っている。

 「はだかの王さまが見えなくなる日」松永先生がアッツ島玉砕の話をしながら男泣きに泣いた姿に影響を受けて批判の目を手の中から取り落としてしまったと振り返っている。