人新世の科学―ニュー・エコロジーがひらく地平 オズワルド・シュミッツ 日浦勉訳

2022年3月18日第1刷発行

 

表紙裏に「人類のさまざまな活動は、『人新世』と呼ばれる新たな地質時代を地球にもたらした。その影響を世界規模え考え、持続可能な社会を維持するには、人間と自然を一体として捉える思考、ニュー・エコロジー(新しい生態学)が必要だ。社会経済のレジリエンスを高め、人類が『思慮深い管財人』として自然と向き合うための必読書」とあり、帯封には「希望は、ここにある 人間は、自然との新たな関係にひらかれている。生態学者、渾身のメッセージ!」「目次 1 持続可能性への挑戦 2 種と生態系の価値 3 生物多様性と生態系機能 4 飼い馴らされた自然 5 社会―生体システム思考 6 驕りから謙遜へ 

7 人間による人間のための生態学 8 生態学者とニュー・エコロジー」とある。

 

まえがきー人新世の科学

 「本書は、現代の生態学とは何か、この社会に存在する科学と自然への異なった見方にいかに語り掛けるか、そしてこの地球上のすべての生命の健康と幸福を支えるための生態学の新たな進歩について、プロの生態学者として幅広い読者に説明するための試みである」

「現代の生態学―すなわち本書で述べる『ニュー・エコロジー』-とは、社会に影響を及ぼす生命科学のフロンティアを生態学者が拡張してきた成果だ。生態学者は、人間が自然に対して抱いている様々な倫理観と、生態学と進化生物学に根差した科学的な見方とを和解させ、ひょっとすると調和させさえする方法を提案できるようになった。自然を永続的な生体-進化学的な創造の過程の現れとみなすべきだという、新しい世界観を生態学者は受け入れるようになったのだ。この過程は、変化し続ける世界で持続可能性を維持するために必要な回復力(レジリエンス)をもたらす」「この新しい世界観は、人間以外の生命に適用されるべき倫理的な資格に、とりわけ地球上の生物の人為的な管理と保全に関して、影響を与えるのだ」

「ニュー・エコロジーとは、人間による地球支配の拡大に直面する、それゆえに人新世(アントロポセン)と呼ばれる新しい時代において、人間と自然の分裂を克服し、生態系の機能を維持する問題に取り組むことを目的とする学問である」

 

第1章 持続可能性への挑戦

    「『生態学者は自然の仕組みを研究するだけでなく、人間が自然の一部であることを認識できるように知識を応用すべきである』というアルド・レオポルド(近代環境倫理学の父として知られている)の訴えがあったにもかかわらず、この(人間と自然の分裂を長期化させる)ような分断された世界観が進行していった」

    「人類を自然から切り離すのではなく、自然の中で役割を果たす方法について生態学がどのように理解を深めることができるかについて、持続可能な世界を構築する文脈から2つの方法を提示したい。一つは、市場経済との類似性を持つ一種のシステムの視点を取ることである」「もう一つの方法は、公衆衛生や医学の新しい考え方を参考にして、環境の健康を維持することが、個人の健康と幸福を維持することと密接に関連しているという個人主義的な視点をとることである」

 

第2章 種と生態系の価値

    「生態学者や経済学者は炭素価格の設定を提唱しているが、資源開発を阻止したり、市場経済における富の創出に課税したりするためのものではない。むしろ、このような価格設定は自然の価値に対する意識を高め、自然が評価される方法と、自然を失う機会費用を拡大することになる」

 

第3章 生物多様性と生態系機能

第4章 飼い馴らされた自然

    「シロアリは市街地環境にとっては悪名は高い。木材でできたものは何にでも害してしまうシロアリを、私たちは普通完全に駆除してしまう。しかしアフリカのような場所では、サバンナ生態系の空間的なパターンを作り出しているため、そこに存在する植物や動物の大規模な多様性にとってシロアリは有益に働く。空間的なパターン形成は、生態学者が自己組織化過程と呼ぶものから生じるつまり、大袈裟でなく景観を構造化する力があるのだ。空間的なパターンは、シロアリが生活することで創発的に現れる」

 

第5章 社会・生体システム思考

    「環境運動の初期の思想的リーダーの一人であるバリー・コモナーは、著書『クロージング・サークル』の中で、『すべてのものは他のものとつながっているというのが生態学の絶対的な法則である』と宣言したことで広く知られている」「新しい社会―生態システム思考は、この現実を避けることなく進んで受け入れ、その上に築き上げるものだ。それは、人間の社会システムや自然システムのレジリエンス、ひいては地球規模の持続可能性を最終的に決定する新たな相互フィードバックを理解するための基本的な原則の一つなのである。また相互フィードバックを理解することは、単に『社会的なもの』を経済学や人間の行動を駆動する固有の金融価値、それらの選択および効率と同一視する傾向を克服することを意味する。『社会的』とは、単なる経済だけではなく人間性の多くの側面を体現するものである」

 

第6章 驕りから謙遜へ

     「1990年代初頭」「バイオスフィア2(地球がバイオスフィア1であることからその名がついた)と呼ばれ、巨大な『ガラスの壺』の中で、複数の生態系の機能を一度に維持することで自然を再現するという、人間の創意工夫と技術的なノウハウが通用するかどうかを見るために用いられた」「バイオスフィア2では人間に安全な生活環境を提供できなくなったため、実験は2年後に中止された」「バイオスフィア2は、人類の生命の健康と幸福をサポートする持続可能なサービスを提供する、機能的な自然経済の技術を開発することは私たちにとって難しく、ましてすべての生命を支えるには、まだまだほど遠いことを私たちに教えてくれた」「環境スチュワードシップは、一方の人間中心主義と他方の生態中心主義の中間に位置する振興の倫理である。人間には環境との相互関係を媒介とした倫理的義務があるとする非人間中心で生態中心的な考え方と、人間中心の考え方をある意味で融合させたものである」

 

第7章 人間による人間のための生態学

     産業生態学と都市生態学は、これまでこの本で取り上げられてきたことの集大成ともいえる新興分野である。これらはシステム思考に基づいており、生態系サービスの評価、生態系の機能のサービスの提供能力に関する惑星限界(プラネタリー・バウンダリー)の考察、現実と仮想の資源のテレカップリング、社会的・政治的・経済的な組織や制度からなる人間の社会システムの階層構造、環境スチュワードシップなどが含まれている。これらは、人間と自然を紡ぎ、両者に敬意を払い、倫理的な方法で持続可能性を実現するための社会的なアイデアを提供している」

 

第8章 生態学者とニュー・エコロジー

    「ニュー・エコロジーは、人間と自然が織りなす未来のために、地球環境の治療や予防医学を実現するための科学的手段を考察している」

 

かなり難しい。特に読めば読むほど、具体的にどういうことなのか?という疑問が湧く。入門書の一歩手前の一般的な書物ということなのだろう。環境破壊、地球温暖化など、様々な地球問題群が昨今叫ばれている中で、どうやら、そうであっても、まだ「希望」はある、ということを言いたいようだ。そのための科学的アプローチの一つを紹介していると思う。