裏表紙「幕府老中・酒井唱雅楽頭と伊達兵部とのあいだの62万石分与の密約。それが、伊達藩に内紛をひきおこし、藩内の乱れを理由に大藩を取り潰そうという幕府の罠であることを見抜いた原田甲斐は、藩内の悪評をも恐れず、兵部の懐に入りこむ。そして、江戸と国許につぎつぎひき起こされる陰謀奸策、幼君毒殺の計略をも未然に防ぎ、風前の灯となった伊達家安泰のため、ひたすら忍従を装う。」
第2部(承前)
くびじろ 断章(六) 青根秋色 ささやき 片羽鳥 断章(七)
手裏のもの 山彦
第3部
川の音 茱萸の実 忍緒 断章(八) 鏡の中の顔 秋ぐもり
隻手砕甲 断章(九) 琴の空音 早い霜 ながれの中 断章(十)
伏せ編笠 日照り雪
「青根秋色」では、伊東新左衛門から本心を教えてもらいたいと請われた甲斐が次のようにいう。「万が一にも、さような大事が企まれており、それについて対策を立てなければならないとするなら、このように人から人へ話しつたえてはならない、もちろん私は無い火の煙と信じている、そんな野望があり得ないということはいま申したとおりだ、しかし、その事実の有無よりも、このように口から口へ云いひろめることのほうが、却って大事をひきおこすおそれがあると思う。伊東どのはそうは思われませんか」
甲斐は鬼役を買って出た塩沢丹三郎に死に急ぐなと忠告するが、宇乃への想いが遂げられないため丹三郎は決意を変えない。宇乃が想いを寄せている相手を恨むかと聞かれても、丹三郎は恨むことはできないと応える。丹三郎の死を予感させるやり取りだったが、中巻では丹三郎は死なない。どうやって鬼役を務めた丹三郎が生き伸びたのかの種明かしはない。
中巻の盛り上がり場面の一つは、酒井と兵部の密約が単に二人だけの密約ではなく、幕府の意を受けて酒井が動いていると甲斐が直観した場面だと思う。酒井の甲斐への態度から推理する甲斐の判断力は流石である。もう一つは、新八との関係を断ち切って、人生のやり直しを決意したおみやと玄四郎のやり取り。過去を洗いざらい玄四郎に告白したおみやが玄四郎のためになるならと、密約の証文を盗み取ることを決意するが、なぜそこまで危ない橋を自分が渡ろうとするのかについて思いを馳せられない玄四郎に幻滅する。
中巻になり、断章は幕府の要人とスパイとの秘密の会話という種明かしがされている。早く下巻を読みたい。単なる伊達兵部と酒井雅楽頭の密約にとどまらず、背景に更に大きな権力を持つ幕府が伊達藩取り潰しを足掛かりとして加賀・薩摩の大藩取り潰しを諮っているとすれば、そのような巨大な権力に対して、甲斐は果たしてどう戦いを挑み、勝利を勝ち得ていくのか、その結末がどうなるのか、一刻も早く読みたいと思う。