千家元麿詩集 小海永二編

昭和43年7月15日初版発行 昭和48年6月15日2版発行

 

編者解説によると、千家元麿は生活的日常の中に新たな口語自由詩を生かそうと意図し、内容・表現の両面における率直さ・素朴さにおいてユニークである。人間を肯定し自然を肯定し世界を肯定し、自らは貧しく暮らしながらその肯定する心によって深い感動の中に生き続けた詩人である。武者小路実篤は彼を「現代のどん底生活の中に楽園の夢を見ることが出来た希有な男だ」と述べている(『千家元麿詩集』「序」)。

 

私の好きな作品をいくつか。

 

 君達は

君たちは決して

今やってゐる職業が

希望でもなく全部でもあるまい

君達は食ひ着るために

その職業をやってゐるのだらう

君達の望みは

君達の夢はもっと高く

飛んでるのだらう

君達の内には若い

希望が燃えてゐるのだらう

君達がそれを語ったら

僕らを動かすだらう

誰も動かされるだらう

君達の幸福を

君達の希望が空しく終わらないで

実現されてゆく事を祈らう

さうして君達の心の助け手とならう

僕は画がかきたいと云う若い労働者も見た

君達はこの都会で苦学しながら

いろゝの望み辛苦して養ひ育てゝゆく。

あゝ君達は淋しい事が多いだらう

又人一倍苦しい事が多く尽きないだらう

だが君達の希望は

そのかん難のために鼓舞され

一層高く羽叩き

君達の内は光りに充たされるだらう

君達の若い火は

その困難の試練に鞭撻され

君達が物質的に惨めであれば

君達の夢も又美しく

君達に光りを添えてくれるだらう

君達の内に

君達が物質的に恵まれてゐなければ

君達は心霊において恵まれてゐるだらう

君達の貧しさは君達の光りである

君達よ、絶望するな

勇気ある少年よ 

君達の未来は祝福されてゐる

進め、困難と暗黒の中を

君達の賢く、勇敢な、愛の火をともして

 

 簡単で

簡単でいゝ

愛のこもった

深い言葉は

かんたんで生きてゐる。

技巧も何もいらない

無限なものは

そこにある

疑ったり

ひねくれたり

傑さうに見せかける

必要はない

理屈がなく

人と人の心は通じ合ふ

 

 私の詩は

私の詩は日常生活のありふれた詩である

私の見、私の感じた生命の詩である

諸君と同じく私といふ一個の人間が、愛し、憎み喜んだことを

単純に率直に歌った詩である

私の詩は誰にも親しく喜ばれるだらう

私と同感の人は多いだらう

私は生涯をたゞより良く生き

より良く歌ひたい

私は人生の大波に漂はされる人間である

私は悲しむ時もあるだらう、嘆く時も多いだらう

しかし私は結局生きることを喜び歌ふ人間だ

私は実在の歓喜、私の胸の中から湧く生命の歌を高らかに歌ふほど、幸福はない