レディ・ジョーカー(下) 高村薫

裏表紙「消エルコトニシタ…。レディ・ジョーカーからの手紙が新聞社に届く。しかし、平穏は訪れなかった。新たなターゲットへの攻撃が始まり、血色に染められた麦酒が再び出現する。苦悩に耐えかねた日之出ビール取締役、禁忌に触れた記者らが、我々の世界から姿を消してゆく。事件は、人びとの運命を様々な色彩に塗り替えた。激浪の果て、刑事・合田雄一郎と男たちが流れ着いた、最終地点。」

 

秘密裏に20億円を手に入れた犯人たち。「諸般ノ事情ニヨリ、消エルコトニシタ/日之出ビールハ、モウ安全ダ」という手紙を新聞社に送り付ける。地下金融グループを追っていた記者が行方不明となる。清三や半田への行確が引き続き行われる中、日常の生活が流れていく。そんな中、懲戒免職となった刑事が田舎に引越すのを手伝いに来た合田と久保。偶然にも、その日、毎日ビールに異物混入事件が発生。次は青酸入れるとの通告があった。競馬場で偶然半田の顔つきを見て模倣犯による犯行だと確信した合田は今なら半田は落とせると直感的に考える。城山に田丸との取引に応じるよう大物政治家の坂田泰一が面会するも、拒絶する城山。その直後、坂田の秘書は城山に、日之出と総会屋岡田との関係を内部告発する文書が捜査機関に提出されていることを告げ、城山は総会屋対策の副社長倉田の裏切りを知る。同時にGSCや総会屋の岡田を追跡していた東邦新聞の遊軍長の根来記者が行方不明となる。闇のグループの名簿を根来から受け取る約束をしていた加納検事は親友の合田に対し、根来が拉致されたのは加納が地検上層部に東邦の記者の存在を漏らしたからだという。遂に模倣犯は青酸ソーダ入りのビールを都内20本ばら撒き無差別テロに走る。捜査一課長は城山に対し、不都合は部分はカットしてよい、テープの存在は一切表に出さないことを約束して、3回の口頭指示の電話録音の提供を求めてきた。城山は社外のリスクマネジメント会社の担当者に相談し、一度は反対されるものの、最終的には一課長の約束を念書にし役員にも伝えないことを条件に応じることを決断する。合田を通じて根来が会う約束をした友人と連絡を取りたいと申し出ていた久保に加納が連絡を取って挨拶を交わす。その矢先、半田の元上司だった捜一管理官が焼身自殺の報が入る。「レディ・ジョーカー」の一人、布川は重度の障害を持つ娘を競馬場に置き去りにして姿を消す。内部告発について城山は検事と面会して真実を伝えて刑事被告人となることを覚悟する。遂に日之出は経営陣を刷新し、城田他は退任し白井新体制がスタート。その翌日に日之出が城田と倉田を告発し翌々日には地検が日之出の総会屋に対する利益供与事件で捜査に踏み切る。半田は合田を果物ナイフで刺して自首する。翌日の朝刊は刑事が刑事を刺すとだけ載る。レディ・ジョーカーの一人逮捕ではなく。年が明けると証券会社への強制捜査、銀行のトップの逮捕と次々に事件が明るみに出る。その矢先、自宅前で城山社長が射殺され、総会屋の西村もマニラで水死体で発見される。久保は家族と東北旅行に出かけ、岡村清二の生まれ故郷に車で立ち寄る。畑を耕す体のがっしりした男と車椅子のレディと清三がトマトをもぎ取っていた。清三は久保に無言で鋤を振って“出ていけ”という一方で男は「レディ、トマトだぞ!」と声をかけた。久保は臓腑が凍りつきある直感が走る。長い物語はここで終わる。

 

城山と合田との最後の場面で、城山が合田に欠けているものは欲望の戦略というシーンは記憶に強く残る。また最終章で個別の事件のメカニズムは解き明かされたとしてもそのメカニズムを動かしている真の駆動装置は見えず、辿っても辿っても道はどこかで途絶え決して発生源に行きつくことがないというこの国に巣食くっている真の闇がとことん深いという久保の記者の述懐めいた言葉も印象的だ。