福田甲子雄の百句 風土に対う直ごころ 瀧澤和治

2022年10月1日初版発行

 

表紙裏「甲子雄は満を持して初句集『藁火』を雲母社から刊行した。師龍太は序文を引き受け、『よもぎの香』と題する心からの讃辞を添えた。とても快活で親しげな文章である。甲子雄の母校の校訓に触れたのは、その人柄からも言辞、行動からも、それが堅固な礎になっていはしまいかと龍太が類推したためだが、よい意味で校訓との関連を想像して面白がっていたところもある。特に、新人発掘の指導力と人への気遣いなどには思い当たる節が多々あったのであろう。〈甲子雄さんの句には、どこか早春の蓬のにおいがする。それも塩餡を入れた草餅の、キッパリとした素朴な風味である〉という喩えも端的で示唆に富んでいるようだ。『早春の蓬のにおい』だけでなく、『塩餡を入れた草餅』もまた、評というよりも、作品を成す上での一つの指針にもなり得ていたような気がするのである。龍太の言葉は、甲子雄がこれから心すべきことをそれとなく伝えていたように見える。」

 

竹山の雨燦々とかたつむり    『藁火』昭和40年

桃は釈迦李はイエス花盛り    『藁火』昭和44年

年来るる振り向きざまに駒ヶ嶽  『青蟬』昭和47年

つぎつぎに子が着き除夜の家となる『白根山麓』昭和50年

初白根風ごうごうと星を吹く   『山の嵐』昭和62年

磯海女のひとりがピアスしてゐたり『盆地の灯』平成3年

散る花の石に巌に行く雲に    『師の掌』平成17年

 

恥ずかしながら、「きねお」と読むことすら知りませんでした。俳句は努力をし続けても芽が出るかわからないが、努力し続けなければ芽が出ることはありえない、そういうことを懇切丁寧に門人に教えてこられた方なんだなあということは巻末の「風土に対う直ごころ」を読んで知りました。母がやっていたのは短歌だったように思うが、母の作品を今度改めてきちんと読み返してみようという今日この頃です。