テロルの決算《上》 沢木耕太郎

2014年6月10日発行

 

大宅ノンフィクション賞受賞作。

昭和35年10月12日、日比谷公会堂で行われた立会演説会で社会党委員長浅沼稲次郎が少年山口二矢に暗殺される。右翼の黒幕に使嗾されたわけでなく自立した17歳の二矢によるテロだった。二矢は大日本愛国党総裁赤尾敏に影響を受けたが、赤尾が黒幕ではない。

殺された浅沼稲次郎と殺した山口二矢の二人を中心に丁寧に描いている(二矢については、60年安保闘争直後、彼の眼には国民を扇動して革命を起こそうとする左翼を憎み、口先では過激なことを言うが実行しようとしない右翼に絶望していた姿を、浅沼については、社会党の中で右寄りで庶民派だったが、中国寄りの発言で右翼の標的にされたことを丹念に描く)。

昭和32年の訪中での浅沼演説(台湾は中国の一部であり、沖縄は日本の一部であります。それにもかかわらずそれぞれの本土から分離されているのはアメリカ帝国主義のためであります。アメリカ帝国主義についておたがいは共同の敵とみなして闘わなければならないと思います)を表面的に受け止めた二矢。なぜ浅沼が中国でこのような発言をしたのか、理解しようとしなかった。