なぜヴィーガンか? ―倫理的に食べる ピーター・シンガー 児玉聡 林和雄 訳

2023年7月25日初版

 

帯封「最も影響力のある現代の哲学者が教える あなたがヴィーガンになるべき理由 動物の苦しみ、気候変動、健康な食生活を気にかけるすべての人へ。ピーター・シンガーが動物解放論、ヴィーガニズムとベジタリアニズムについて書き継いできたエッセイと論考を精選。半世紀にわたる著述活動をこの一冊で。」

表紙裏「動物の苦しみ、気候危機、健康な食生活を気にかけるすべての人へ。「最も影響力のある現代の哲学者」ピーター・シンガーが動物解放論、ヴィーガニズムとベジタリアニズムについて書き継いできたエッセイと論考を精選。1973年の記念碑的論文「動物の解放」から2020年の新型コロナウイルス禍に対するコメントまで、半世紀にわたる著述活動を一冊に封じ込めたオールタイム・ベスト・コレクション。」

 

目次

はじめに

動物の解放―1975年版の序文

動物の解放(1973年)

これが鶏の倫理的な扱い方だろうか?(ジム・メイソンとの共著)(2006年)

オックスフォードのベジタリアンたち―私的な回想(1982年)

ベジタリアンの哲学(1998年)

もしも魚が叫べたら(2010年)

ヴィーガンになるべき理由(2007年)

培養肉は地球を救えるか?(2018年)

COVID-19に関する二つの闇(パオラ・カバリエリとの共著)(2020年)

訳者解説

 

動物解放論者のシンガーは、①動物への配慮、②気候変動、③自分の健康への配慮から、肉食をやめるべきであると主張する。その最大の理由は①にある。鶏、豚、牛も、人間と同じく「感覚をもつ存在」である。感覚をもつ動物に苦痛や不安を与えるべきではない。これに対して「動物の利害に配慮する必要があるのか」と反論があるかもしれないが、それは「種差別」である。人種差別、性差別が許されないのと同じように、種差別も許されるべきでないという。

そして、シンガーは工場畜産の目を覆いたくなる現実を描写する。本書の真ん中に登場する「これが鶏の倫理的な扱い方だろうか?」(ジム・メイソンとの共著、2006年)は、目を見開く思いがした。体重過多のために脚を悪くする鶏の割合は余りに高く、熱湯に生きたまま押し込まれ、もし鶏の世界にも地獄があるとすれば、文字通り地獄の世界に追いやっているのが畜産過程である。英国の1997年判決は画期的だ。ロンドン・グリーンピースに所属する2人の活動家を「マック殺害」「マック拷問」という言葉を添えた小冊子が問題としたマクドナルド社が訴えた裁判だった。マック名誉毀損訴訟は515日間、証人数180名を数えた。ベル裁判官は、鶏を過密状態に置くのは残酷だとし、残酷だと非難することは妥当だと述べた。但し牛肉については考慮されなかった。魚も苦痛を感じる動物であることを忘れてはならない。

動物性食品を摂取しなくても健康に生きていける。唯一植物性食品から摂取できないのはビタミンB12だけであり、ヴィーガン原料のサプリメントで簡単に補える。動物を殺すことだけが問題なのでなく、長い苦しみを与える仕組みを維持していることも問題であると気付くべきである。穀物や大豆でなく牧草を食べて育った動物から得た卵や乳製品ならば倫理的に弁護可能な食生活を送ることができる。

世界中の自動車の排気管が出る温室効果ガスの量と畜産業のそれとは等しい。約15%は畜産業由来である。前者は今後減少することが期待されているが後者は今後増加すると予想されている。クリーンミートは環境保護的な意味でクリーンと言え、技術の力で倫理的な偉大な一歩を踏み出すべきであろう。

ウェットマーケットが閉鎖されれば、コロナのような中国製の病気が世界中の人々を害するリスクを減らすことになる(マーティン・ウィリアムズ)。中国だけでなく世界中でウォーターマーケットが禁止されるべきである。

 

ヴィーガンの言葉は聞いたことはあったが、このような論考まであるとは知らなかった。大変な説得力である。ただ一気にヴィーガンになることは難しい。それでも少なくともゆっくりであっても、ゆくゆくはヴィーガンに向かねばならぬ必要を痛切に感じた。多くの人が読むべき啓蒙の本である。