藏《三》 宮尾登美子

2008年5月20日発行

 

意造が脳卒中で倒れ、幸いに意識を取り戻したが、一週間は寝たきり状態だった。付き添ったのは佐穂だけで、せきは意造の看病を佐穂任せにした。左半身に若干のマヒを残したものの何とか回復した意造だったが、この1週間で意造は考え方を大きく変えた。せきには丈一郎の養育に専念させ、家のことは佐穂に任せることにした。烈と佐穂の家移りは延期させ、せきが隠居生活を続けた。ある時、丈一郎が小川のそばで倒れ石の角に頭を打ちつけ、やがて死んでしまった。意造の落胆ぶりは激しく、藏を閉めることを杜氏の晋に伝えた。せきは神社参拝をする際に合わせて野積に里帰りにした。すると昌枝が訪ねてきて、せきに去り状を書いて自由にしてやってくれと頼んできたが、意造は離縁はしないと拒絶した。その後、遂に烈は完全に失明した。夜だけでなく昼も暗闇の中で生活せねばならなくなった烈は、遂に来るときが来たと覚悟を決めた。そのことに気付かれまいとした烈だったが、佐穂は1カ月程して烈の動きが指だけを頼りにして一切目を頼りにしていないことに気付き、烈が失明したことに気付き、意造に来るときが来たことを教えた。意造は藏を譲ってほしいという人がいると大黒屋から言われて譲ることも考え始めたが、『冬麗』の銘柄がなくなるという噂を聞き、譲ることはせず閉鎖することに決めた。烈は、意造に元気がなくなり、いつかは自分が一人立ちしなければならないことを考えて、いつまでも佐穂の助けを借りてばかりではいけないと考えて、自分一人で出来ることは自分でやりたいと意造や佐穂に訴える。親戚の婚礼に出かけた烈を一目惚れした遠縁にあたる海運業の主から息子の嫁に是非という話が持ち上がるが、意造は目が見えない烈を嫁に出すことに反対し、烈が死ねば田乃内家も潰えるがそれでいいと考えていた。その話を意造は烈と佐穂に伝え、烈は一人涙を流した。烈は考えに考えて、酒造を再開したいと意造に訴えた。しかし、意造は取り合わない。女には穢れがあるから蔵は女人禁制だと諭すが、烈は諦めない。烈は酒の神が祀られている京都の松尾神社にお詣りしたい、以前断った『北越雪譜』の読み聞かせをしてほしいと意造に頼み、意造から勉強を教わるようになる。砂が水を吸いこむように知識をどんどん吸収する烈の姿を見て意造は次第に元気を取り戻す。烈の酒造りの意欲が大変強く、意造は佐穂に意見を求めると、佐穂は、姉賀穂なら、賀穂の気性を引き継いだ烈にきっとしっかれやれと励ますと思う、という。意造はますます迷うことになった。