昭和56年4月25日発行 平成15年4月25日44刷改版 令和5年4月15日60刷
裏表紙「門の中央を閉ざす柱、一千二百年の秘仏・救世観音―古の息吹きを今に伝え、日本人の郷愁を呼ぶ美しき法隆寺に秘められた数々の謎。その奥に浮かび上がる、封じ込められた怨霊の影。権謀術数渦巻く古代国家の勝者と敗者を追い、あくことを知らぬ真理への情熱と、通説を打破する大胆な仮説で、ときの権力により歪曲され抹殺された古代史の真実に華麗に挑戦する、『梅原日本学』白熱の論考。」
目次
はじめに
第一部 謎の提起
法隆寺の七不思議/私の考える法隆寺七つの謎/復元論と非復元論の対決/若草伽藍址の発見と再建の時代
第二部 解決への手掛り
第一章 永遠の法隆寺は再建されたか
第二章 誰が法隆寺を建てたか
第三章 法隆寺再建の政治的背景
第三部 真実の開示
第一章 第一の答(『日本書紀』続『日本記』について)
第二章 第二の答(『法隆寺資財帳』について)
第三章 法隆寺の再建年代
第四章 第三の答(中門について)
第五章 第四の答(金堂について)
第六章 第五の答(五重塔について)
第七章 第六の答(夢殿について)
第八章 第七の答(聖霊会について)
年表
図版目録
解説 秦恒平
『古事記』と『日本書紀』の制作主体は藤原不比等と考え、『記紀』において語られている日本神話を律令体制にもとづく宗教改革の神話と考える仮説の追究に夢中になっていた著者が法隆寺にかんする新しい仮説に気付いた。それは、法隆寺は仏法鎮護のためだけでなく、聖徳太子の怨霊を鎮魂する目的で建てられたとする仮説である。著者は上山春平氏との二人三脚の認識作業についてカントの言を引用する。「直観なき概念は空虚であり、概念なき直観は盲目である」著者は直観の役目を、上山氏は概念の役割を分担したようである。
第26回毎日出版文化賞受賞。
冒頭で法隆寺の七つの謎をあげ、次に太子を聖化すると共に太子の子孫の殺害を全て入鹿一人のせいにすることで入鹿殺害を合理化し正義の復讐のように見せた不比等の『書記』は歴史を偽造したが、偽造されない真実が「法隆寺」に現れているのではないか。そのような眼によってしか法隆寺の謎(文献に関する2つの謎、建物・彫刻に関する4つの謎、祭りに関する1つの謎)は解けないという視点を提示し、当時の政治的背景を踏まえた上で、第三部で資料に基づき仮説を個別具体的に論証していく。そして舞楽・能は鎮魂の儀式であると結ぶ。